第30章 rollin’ rollin’
ー赤葦sideー
サーカスナイトというその曲に幾分か心を引っ張られていたところを、
穂波ちゃんの言葉が柔らかく暖かく包み込んでくれるような心地がした。
いや、前述の曲もとても甘美で、蕩けるような曲だった。
一貫した切なさがありながらも、苦しくない。
あくまでも甘く、空想的というか…
タクシーを呼ぶねと言われたがお断りした。
少し歩きたい気分だ。
聞けば穂波ちゃんも駅まで歩いて向かうらしい。
駅への道を穂波ちゃんと2人で歩く。
『あ、京治くん、そう言えばね、進路のこと彼に話せたよ』
「…お、それは、よかったね。最初に話せた?」
『輪郭みたいなのは彼に最初に話したの、聞いてもらえたから。
そうだな、どんなにぼんやりしてても話すことで描けるものもあるよなぁって思った。
でもそこからもう一本踏み込んだ話はね、久しぶりに再会した友達に掘り下げられてね、
その子に最初に話した。 …それも頭の中が整理されてくというか、面白かったよ』
「うん。よかったね」
『うん。京治くんともまたゆっくり話したいなって思う。話したいし、聞きたいし…
あ、そうだそれでね、思ったんだけどね、わたし、またお手紙とか京治くんに書いてもいいのかな』
「え?なんでだめなの? あ、彼氏?」
『ううん、彼はね全然気にしてないよ』
全然、気にしてないのか。
すごいな孤爪。
俺は今日、孤爪じゃない人にキスをされたって聞いて、
恋人でもないのに相当驚き、動揺した。
『京治くんに彼女ができた時に、いやだったりするかなって』
「…それは、まだ当分先のことだからその時考えればいいよ。
穂波ちゃんから手紙が届くのは嬉しい」
『…ん。うれし』
「あのさ、穂波ちゃん。例えば穂波ちゃんがfearless girlだとしてさ」
『ほぅ… 例えば…』
「俺にキスされたらどうかな…?」
…何聞いてんだ俺