第30章 rollin’ rollin’
ー赤葦sideー
「穂波ちゃんはそういう経験があるから
キスしたい気持ちを抑えれないって状況を身をもって知ってるってわけね。
…受ける方だけど。 それで京治くんは? そういうの全くない?」
「俺は… 俺は、そうですね… 実のところ、普通にありますね。
もっと触れたい、もっと見たい、口付けてしまいたい…とか。
頭でわかってる分は抑えれますけど、
たまに衝動的に触れてることがあるので… キスまでしちゃったらどうしよう…」
「…笑 どうしようね。 それはその時に考えるしかないね」
キスなんてしてしまったら、
全てが変わってしまうんじゃないか…
髭を生やした男性がステージに登場し、ライブが始まった。
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「京治くん、今日はありがとう」
〇〇さんの友人が穂波ちゃんを連れて、
先程までステージで歌っていた男性のところへ行った。
「いえ、こちらこそ本当にありがとうございます。
お料理も美味しかったですし、お話もいろいろとためになりました」
「…あはは! ためになった?私の話が京治くんに? それはよかった。
私の方こそ本当に収穫の多い時間だったよ。たっぷり観察させてもらった。
…あのさ、今彼が歌った曲のうちの一曲をもとに、小説を書こうって話してて。
京治くんを、私なりに捉えた君を、登場させたいなと思ってる」
「…はぁ」
「穂波ちゃんから京治くんとの書店での話を聞いた時から、
君は穂波ちゃんのことが好きなんじゃないかな、と思っていて。
それからいろいろ妄想してるうちに、小説に出てくる人物が生まれたんだ。
そのモデルに一度会いたかった。
お陰で、一層深みをもって、生き生きと私の中の彼が命を謳歌してる。
執筆作業が捗りそうな予感だけは、する。 ありがとう」
「いや、いえ… えっと」
「あ、京治くんのことをそのまま書くこととかはしないから、もちろん。
ただ京治くんと穂波ちゃんの出会いの話を聞いたときに
私の中で生まれた人物をね、描きたいと思って。
あくまでも私の中での人物だから… でも結構そっくりかもしれない」
「…fearlessって」
「怖いもの知らずとかかな。結構しっくりくるよね、穂波ちゃんに」