第30章 rollin’ rollin’
ー穂波sideー
「博物館も良いけど、次は植物園も行きたいね」
今日の電話の最初の頃に感じた棘はすっかり影を潜めた。
蛍くんはいろんな感情を表に見せてくれるので、中毒性があるというか…
特にこの、今の、まぁるい蛍くんはもう、
極みみたいな感じで。 危ない。
アシッドみたいな。
『うん、植物園行こうね。 カフェもまた』
「うん。 水族館行ったことある?」
『あ、そっかぁ、仙台には水族館も動物園もあるんだね。
小さいときに行ったのかな、写真があった気がする。
基本海ばっかりだから、あまり記憶がないよ。 …連れて行ってくれるの?』
「…うん、行けるならどこでも一緒に行きたい」
『…あぁもう蛍くん。 アシッドだ、蛍くんは』
「はい?」
『蛍くん中毒になりそうっていうか、なってるかも』
「あぁ acid… ははっ それは、良いですね。
気がついたら僕なしではいられなくなってたりして…」
『…ちょっと蛍くん』
…ちょっと笑えないし
「え?」
『…ううん、なんでもないよ』
「…」
『いやでもね、わたしは依存はね、依存はしたくないの』
「…言い聞かせてるの?笑」
『…笑 そう聞こえた? いやでも、ほんとにそう思うの』
「依存されてるともしてほしいとも思わないし、
彼氏と穂波さんも依存とはまた違ったとこにいるように思うけどね。
そんな、よく知らないけどさ」
『…』
「依存とは遠いとこにいるイメージ。穂波さん自身が。
だから、大丈夫なんじゃない? ちょっとくらい僕に中毒になるくらい」
『…笑 いやそれって、依存するってことじゃん』
「…そもそも中毒になってるって言い出したの穂波さんだし」
『あ、そっか。 蛍くんのさ、この感じに触れれなくなったら、
禁断症状とか出そうだなって思って』
「…あはは!笑 そりゃもう、がっつり依存してるじゃん」
『…だね 笑 もー良いよ、この話は…』
そのあと、蛍くんはそう言えば…と言って
フジクジラの話を聞かせてくれた。
鯨ではなくサメの仲間であること、深海魚であること、
飼育が難しく水族館にはまだいないこと、
発光し身を守っていること、まだ謎の多い生き物であること…
こういう話、大好物で いつまでも聞いていたい。