第29章 山茶花
ー研磨sideー
焼きマシュマロたちのバンドの時間の頃に体育館へ戻る。
…バンドはみんな立って見るし、
周りの人たちがジャンプしたりするのもあるから苦手だ。
端で観よう… 穂波の歌が聞ければ良いし。
あ、ギャラリーにあがろっと。
ブザーがなって、幕が上がる。
最初の曲はノリのいい曲っていうのかな。
でもうるさくなくって聞いてられた。
やっぱ、上手いんだな、選考が厳しいだけあって。
そのあとMCみたいな感じで1人が喋って、
もう一曲、懐メロやりまーす
俺ら全然世代じゃないっすけど、先生とかどーっすかねー?
って言って、昔の曲を一曲やった。
昔のっていうけど、そんな感じがしないのはアレンジとかしてるからなのかな。
今は2曲歌い終わったところ。
「ありがとうございまーす!
ここからね、しっぽり行こうかなーって思ってんだけど…
んー、もう呼んじゃおっと! おいでおいでー
…うん、あなたしかいないから 笑」
制服に裸足でぺたぺたと歩きながら穂波が出てきた。
…遠くからでもかわいい。
「俺らの馴れ初めも話したいとこなんだけど…
長くなるしとりあえず聞いてもらおっか。
…じゃあ、どう?もう声、出そう?」
『あ、うん。出ます あー あー』
「…笑 今テキトーだったでしょ」
『…笑 バレたか。
だってこんなの初めてだから声が出そうかどうかとかわかんない』
…穂波は普通にそこにいる。
手持ち無沙汰な感じも、張り切った感じも、
そわそわした感じも、かっこつけた感じも、ない。
肩の力を抜いて、いつものままそこにいる。
それが、いい。
マイクを通して穂波の歌を聞くなんて、初めて。
…だし、この先もそんなない気がする。
それくらいでいい。
鼻歌とか、部屋でぽろぽろギター弾きながら歌うくらいで。
そう思うけど、マイクを通してもやっぱり、
声が心地いいのは変わりなくて、
それに加えて無駄に音の設備良いからなんか…
想像以上に… すき、かも。
しかも歌詞がすごい、穂波っぽい。
歌詞とか歌とか、あんま興味なくって、
大体ゲームしてるから聞くこともなかったけど…
ライブっていいものだな、とかちょっとだけ、思った。