第29章 山茶花
ー穂波sideー
アメリカ人の友達にやっぱ似てる。
潔癖症なんだけど、こう、安全だと認められると、
他の人といつも距離を取ってる分、
すごい近いっていうか。
距離感の測り方がちょっとズレてる。
でも潔癖とは程遠いわたしを、
アメリカの友達がどうして内側に入れてくれるのかは未だ謎。
一人でも謎だったのに、聖臣くんが増えたらもっと謎。
聖臣くんがマスクを外す。
…お、素顔。
『わぁ、聖臣くん、口小さい!あごしゅってしてる』
「…」
聖臣くんの手がわたしの顎に添えられる
くいっ って。
虫歯、チェック?
大きなカバの口を開けてみる。
「………」
「ぶっ 笑」
聖臣くんの眉間にぐーってシワが寄る。
「…なんで口を開けた?」
『歯のチェックしてくれるのかと思った』
「あはは!おもしろっ ていうか、聖臣、暴走しすぎ」
『…暴走?』
「いいから、穂波ちゃんから手、離して」
古森くんに言われた通りに手を離し、
聖臣くんは鞄から個装になってる新しいマスクを取り出す。
「あっ穂波さん!音出し来れそうっすか?
ぼちぼち始まります! って俺も遅刻気味っす」
焼きマシュマロくんたちの1人が
ちょうど音出しに向かうところで声をかけてくれた。
『あっ、わたしもすぐ行く』
「うん!最初俺らだけだから穂波さんはそんな焦らず!
でもぼちぼち来てねー!」
颯爽と走っていく背中を見送って。
『そう、わたし今から用事あって』
「あ、そうだったね。引き止めてごめんね」
『ううん、そんな。お話しできて楽しかったよ。じゃあ、またね!
あっ聖臣くん。 今度、手塩にかけた梅干し持ってくるね!』
梅干し好きと梅干し談義、もっとしたいのだ。
味見だってしてもらいたいのだ。
2人に手を振って、わたしもリハーサル室へ向かう。
「…あははっ なんだろね、あの子。かわいいな」
「…だな」
「聖臣、マスク外して何しようとしたの?」
「…キス」
「…隅におけないっつーか、聖臣2人きりで会ったらやばそう。
ていうか聖臣、順番な? ある程度、順番大事だぞ!」
「………」