第29章 山茶花
「なんだ、元也」
「何だじゃないってば、ほらもう手、離して立ち上がって」
聖臣は言われた通り立ち上がる。
「…靴下履いてて、わからなかった」
『…うん、ありがとう。 …ふ 笑』
「穂波ちゃん、別に怒っていいんだよ?
ごめんね、突拍子なくって」
『あははっ いや怒らないけど、すごいいい2人だなぁって…
くぅー 可笑しいし きゅんとしたし あー胸いっぱい』
「………」
『いつもこんな感じなの?』
「あ、ううん、全然。聖臣普段こんなことしないから」
『あ、そっかぁ』
「だからごめんね、俺も対応しきれなくって」
『あははっ 良い良い、全然気にしてない』
「いや、笑ってるけど、もしこいつがいかがわしい気持ちでやってたらどうするの?」
『へ?』
「こういう、手首とかにほら、カメラとか仕掛けててさ」
『………』
「盗撮とか… ありえない話じゃないでしょ?」
『………』
「元也、俺はそんなことしない」
「知ってるわ!でもするやつもいるから、2人とも気をつけろよってこと!」
「…俺も?」
「疑われたらだいぶめんどくさいぞ、絶対。そのなりだし、マスクしてるし」
『あははっ そだね、わたし以外の人にはやらない方がいいかもっ』
「…それはない。他の人には触らない」
『………』
「…ちょっと、よくわかんないよもう、話の方向性がっ!」
『…聖臣くんのそのホクロ、色っぽいね。星座みたい。いいな』
「………」
『…ちょっと近くで見たいな、触らないから』
そう言って背伸びをする穂波ちゃんの意を汲んで、
聖臣は顔の位置を合わせるように身体をかがめる。
『天然パーマ?きれ〜 目も眉毛も黒子も髪の毛も全部黒い』
「………」
『…ありがと。もう良いよ』
「虫歯あるか?」
『えっそんなの歯を見ないとわかんないよ …いや、歯見てもわかんないや 笑』
「俺じゃない。俺に虫歯はない」
『あ、わたし?わたしも今はないよ。2週間前に検診行ったから大丈夫』
「………」
いや聖臣、それなんのための質問?