第29章 山茶花
ー古森sideー
『うん、今日わたしは特に落語の彼に魔法にかけられたよ』
…この子、あんだけすごい踊り踊っといて
傲りが1ミリもないな、ほんっとに。
「そっか、すごいね、ステージの魔法」
『うん、コートの魔法もあるよね』
「え?」
『バレーしてるとこみてるとふわぁってなるの。
特にね、セッターとリベロにわたしは弱い。笑』
「まじ?俺、リベロ〜♪」
『わぁ〜 じゃあ春高でしかと魔法にかけてもらおっと』
「ははっ かかりにくるんだね、かけるんじゃなくて」
『うん、魔法にかかるのは気持ちいいから』
「…」
やっば、すげー話しやすいし。
かわいーなー でも、彼氏いるよね、絶対。
あの、一緒に踊ってた人かなぁーとか思ってるんだけど。
『あ、じゃあやっぱりあそこにいたのって聖臣くん?』
「あ、そうそう。俺ばっか喋ってたら怒られるわ 笑
おーい聖臣ー!穂波ちゃんいるよー!」
さっきまであんな人の渦にいたくせに
あそこでなるべく人混みを避けて動かないようにしてる聖臣を呼ぶ。
穂波ちゃんがいたらくるでしょ。
『聖臣くんと古森くんは幼馴染?』
「ううん、俺らは従兄弟」
『へー!従兄弟なんだぁ!いいなぁ、仲良い従兄弟と同じ高校』
「俺は穂波ちゃんと同じ高校がいいなぁーとか言って」
『ふふっ あ、聖臣くん、こんにちは』
「…うん」
『聖臣くん、あのね…』
「手、貸して」
『へ?』
何をいきなり言い出すんだろう
穂波ちゃんは頭に ? を浮かべながら手を差し出す。
聖臣はその手をぎゅっと握る。
「あ、冷えてない。あったかいな」
『…あはは!ありがとう。気にかけてくれたんだね』
「脚は?」
『…ん?』
「はっ!?聖臣っ」
聖臣は穂波ちゃんの足元にしゃがみ込んで
ふくらはぎから足首を撫でるように触る。
…こいつ、俺とやるマッサージとおんなじ感覚でやってね?
女の子ってことも、菌のことも、何も気にしてないじゃん。
少しの沈黙のあと、聖臣が上を見上げる…
「ちょっと!聖臣!」
視界を遮るように、間に顔を割り込む。
そんなとこから制服着てる子見上げちゃダメでしょ。