第29章 山茶花
ー赤葦sideー
「次が最後だっけ、芽衣?」
「うん。最後ノブ先輩と踊ることになったって」
「ノブ先輩と?あの、ブレイクダンスとかいうやつ?」
「ジャズダンスって言ってたよ」
「ジャズ?ジャズで踊るの?」
「いや、それはそれでかっこよさそうだけど。R&Bとかで踊るやつじゃないかな」
俺の後ろの方に座ってる、
穂波ちゃんの友人の会話が耳に入る。
次で最後なのか…
照明が落とされたまま
穂波ちゃんと男子生徒が登場し、
こちらに背中を向けてポーズをとり静止する。
2人ともグレーのスウェットパーカーに
黒いスウェットパンツ。
でも穂波ちゃんのは女性らしい形で、
お腹も見えるような丈。
照明がつき音楽が流れ、踊り始める。
身体のしなやかさや、
綺麗な腕の動き…
詳しいことはよくわからないが、
会場にいるすべての人を引き込んでいるのがわかるし
指先まで本当に魅力的だ。
踊りが終わると手を繋いで中央により、礼をする。
手を離し、穂波ちゃんは男子生徒へもう一度拍手を
というようなジェスチャーを両手でする。
鳴り止んでいなかった拍手がさらりに大きくなる。
男子生徒は一礼し
両手をひらひらさせながら穂波ちゃんへ向け
穂波ちゃんへの拍手を促し、ステージ袖へはけていく。
一段と拍手の音が大きくなり、
正面、右、左と身体の角度を何度か変えて穂波ちゃんは深く礼をして、
それから、確かに孤爪の方をみて、今日一番綺麗な笑顔を見せるとステージ袖へとはけていった。
木兎「えー今の顔なにー!?すっごいかわいかったねー」
赤葦「…ですね」
クロ「あの子はねー天然たらしだけども、すっげーしっかりとした線引きがあるのよ」
夜久「すっげーかわいい顔で話してくれるーっつって浮かれそうになるんだけど
研磨といるときの顔見たら、あーなるほどねーってなるよな」
クロ「ねー それはもう残酷なほど、はっきりと」
…そんなこと、百も承知。
だから別れて欲しいとかそんな気持ちは一切湧いてこない。
ただ、少しでも知り合えたらと思うし、
少しでも一緒に時間を過ごせたらと思う。
俺にもし出来ることがあるのなら、してあげたいと思う。
それだけだ。