第29章 山茶花
ー研磨sideー
ブーって幕が上がる前のブザーが鳴る。
こういうとこからいちいち本格的なんだよな。
体育館の中が静まり返って幕が上がったその先には
ヴェールみたいなのに包まれて座ってる穂波。
顔とか何も見えないけど、シルエットはぼんやり透けてて…
すでに、綺麗。
すこしの沈黙の後、音楽が始まる。
…ちょっと、リエーフのスマホで見てイメージしてたのとだいぶ違う。
物語の中の、妖精の舞みたいな。
ゲームの中の世界みたいな。
無邪気で、無垢な感じ。
それが故にちょっと、残酷な感じもうっすら感じるような。
そんな世界観。 …やば。 想像してたのと違う。
ヴェールみたいなのに包まったり、
そこから顔をチラッと覗かせたり、
羽を広げて飛ぶようにしたり、
くるくる回ったり。
音楽も鉄琴みたいな音とハープみたいな音で…
とにかく全てが幻想的で、完全に、持ってかれた。
…馬鹿みたいに音響も照明もいいし
五分くらいかな踊り終えて、少しの間そのまま動かなかった穂波が
礼をするために一度顔を上げた途端、
息をするのも忘れてた、みたいな感じで一気に体育館の空気が動いた。
拍手、歓声、話し声。
どこか遠くにいる人みたい。
すっごい綺麗な表情で微笑みながら
客席の端から端を見渡して一礼していったんはけていく。
クロ「…想像と違ったけど 想像以上」
夜久「…やっべー、俺マジで息するの忘れてたわ」
犬岡「俺もですっ つーか、拍手もできなかったっす」
木兎「………」
赤葦「………」
(木兎さん、何も喋らないんだな)
カズ「周平、今のみたことあった?」
周平「いや、初めて見た。何あれ、相当レベル上がってね?」
カズ「だよね、もはや異世界からトリップしてきたのか、くらいだったし」
周平「研磨、大丈夫か?」
研磨「…いやちょっと、大丈夫じゃないかも。 え、今のってほんとにおれの彼女?」
周平「…笑」
クロ「…笑」
カズ「…気持ちはわかるけど、穂波にそれ絶対言わないでよ」
研磨「…言わない、けど」
それどういう意味?