第29章 山茶花
ー研磨sideー
朝から部室前の一件で胸くそ悪かったけど、
穂波がかわいいことも、
穂波のことすきなのも、
当たり前だけど何一つ変わんなくって、
いやむしろすでにかわいかったのに割増しでかわいくって。
すきな気持ちも大きくなる感じがして。
部室前のことなんて心底どうでもよくなった。
…あれだきっと、よくあるやつ。 アンチってやつ。
おれには無縁だけど、穂波みたいに人を惹きつける人には、
きっと付き物なんだろう。 …気にしてても仕方ない。
まっすぐで真っ当な批判や指摘じゃなくて、
あんなねじ曲がった考えに気分持ってかれるなんて時間と労力の無駄でしかない。
今は体育館でステージが始まるのを待ってる。
2人で来るつもりが6人、
途中で福永と犬岡に遭遇して結果8人でまとまってる。
周りに知ってるやつばっかだから、
よく知らない人たちの人混みに混ざるよりずっと気がラク。
…ちょうどいい。
手品だから座るようにと指示が出て床に座る。
隣で手を繋いで立ってた穂波を、
座るタイミングでおれの前に移動させた。
だから今はおれの脚の間に穂波がいる。
腰に回した腕に穂波の手が乗っかってて。
おれは穂波の肩に頭を埋める。
…すき。
…今日はもういろいろどうでもいい。
いつもより一層どうでもいい。
くっついてたい。
「えぇっ!!研磨くんっていつも学校ではあーゆー感じなの!?」
「…いや、ああいう感じってわけではねーよ。いつもはもうちょっとアイテム装備って感じ。
今はアイテムなしでも関係ない、って感じだな」
「アイテム…?」
「そう、アイテム」
「…いいなぁ、俺も好きな子とあんな風にくっつきたいなぁ〜」
「…お前の好きな子が穂波ちゃんである以上、それは無理かもなぁ〜」
「だぁー!黒尾言ったな!わぁーってるよ、そんなこと!
でも好きじゃなくなろうとする理由もねーだろー!」
「…だよなぁ。そのくらいなら良いんだけどなぁ。
好きな気持ちは変わらない、けど見守ることも選びたいっつーかね」
「…はぁ?黒尾何の話してんだ?」
「木兎には嫌な気持ち起きねーなーって話ですー」
「あー? ぉん? あれ、それって俺褒められてるの?」