第29章 山茶花
ー赤葦sideー
「なぁ、赤葦〜 やっぱウェアに着替えてくればよかったな!」
制服で登校し、部室で練習着に着替えてから音駒へ行こうと思っていた。
その方が少し、それが数分だとしても
少しでも長く穂波ちゃんのいる場所にいられるから。
──「えぇっ 赤葦着替えんの!?」
「…えぇ、そのつもりです。木兎さんも着替えては?」
「えー!制服でいこーよー!
せっかく赤葦とお出かけなのにウェアじゃなんか特別感でない!」
「…制服に特別感があるんですか」
「えー!あるよー!だってさ………」
木兎さんの言うままに制服で行った方が
今この場を早く収めれる=早く音駒に行けると思い
特に議論もせず制服で来たのだけど…
「あ、そうですか」
「だってさ、それなら部室に集合時間までに帰ればいいもんな!」
「………」
理由、話してみれば良かったのか?
いやでもあのタイミングで言ったところで聞き入れたかはわからない。
「学校休みの日の練習でしか音駒来たことないから新鮮だなー!
音駒はセーラーだもんなぁ。やっぱセーラーいいよなぁ〜
夏とかさ、キャミ着てない子はお臍見えるんだよね〜 チラッて。
穂波ちゃんのお臍みたいなー!」
…穂波ちゃんの、臍………?
一瞬頭がクラッとした。
落ち着け、俺。
「あぁでも流石に11月末のセーラーの裾からはそれはないんじゃないですか」
「だよねー 穂波ちゃんどこにいるかなー 2年生の教室行ってみるー?」
「…そうですね、でもその前に中庭とか渡り廊下を通っていきましょうか」
「おー!確かに!穂波ちゃんそういうとこいそう!」
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中庭にはいなかったのだが、
そこから2階の渡り廊下を見上げると
孤爪と穂波ちゃんが手すりのところにみえた。
手すりに寄りかかり、口付けを交わしている。
それを、穂波ちゃんに想いを寄せる木兎さんと俺の2人、並んで見上げる。
…心地いいまでに、2人の姿が美しく、
遠目にみえる、感じる穂波ちゃんの空気は幸せそうで。
…これでいいんだ、と思う。
俺は別に孤爪の位置にとって代わろうだなんて思っていない。