第29章 山茶花
「あ、穂波」
渡り廊下の扉を開けると
研磨くんは手すりに肘をかけてゲームをしてて。
そのままの姿勢でこちらを向いてわたしの名前を呼ぶ。
「おれのすきな穂波」
『…?』
隣までいって手すりに背中をもたれかけると、
わたしの頬に手を添えながらそんな実直な言葉を漏らす。
「おれすごい好きだよ、穂波のこと」
『えっ へっ?』
「何回言っても何回でも言いたい」
『…どうしたの研磨くん、お酒でも飲んじゃった?』
「…飲んでないし」
研磨くんはわたしの身体を挟むようにして
手すりに手をかける。
「ずっと好き。自信ある」
『…ん』
「おれは穂波の」
『…ん』
優しくて甘いキスを一度。
…なんだろ、何かあったのはわかるけど
キスがすごーく優しくて、蕩ける。
「…最初は手品?」
『あっ、うん!1年生!すごくすごいって!オリジナルなんだっていろいろ』
「…へぇ オリジナル」
『行こっか。前で見れたら前で見よう?』
「…ん その前にもっかい」
さっきより深く、甘く、切なくなるほどに優しいキス。
胸がきゅうううんって締め付けられる。
…なんだろう、これ。
「…ん。行く。手品、みよ」
『…ん』
「穂波ちゃーーーん!」
「え」
『へっ!?』
渡り廊下から見下ろせる中庭から聞こえるのは、
紛れもなく光太郎くんの声。
「研磨くんもー!へいへいへーーーい!!いいなぁー!
学校で、渡り廊下で、俺もチューしたーいなー!!」
「木兎さん、声響いてますって」
高木先生の声なんて比じゃない大きな声が、
校舎の壁に跳ね返って響き渡る
光太郎くんの横には、京治くんもいる。
梟谷の制服、初めて見た。
グレーのブレザー。青かな、緑かな、綺麗な色のネクタイ。
『光太郎くん!京治くん!今そっち行くね!待っててー!』
研磨くんもわたしもお揃いの水筒を指に引っ掛けて、
空いてる方の手を繋いで中庭に向かう。