第29章 山茶花
「孤爪先輩っ」
…はぁ
目に涙を溜めておれを見上げてくるけど
なんの感情も湧いてこない。
…穂波が泣いてると色んな感情が湧くのに。
何か言うと絶対、優しくはない言葉を吐いてしまうから
こんな時は何も言わないに限る。
おれだって別に、傷付けたいわけじゃない。
「………」
「私、諦めません!私の方が絶対、孤爪先輩とお似合いの彼女になれますもん」
「………」
諦めない、だけ言えばいいのに。
それならそっか、この場はで済むのに。
いちいち加えてくるその一言、一文に… イラつく。
「肌の色だって、ほら私っ白いんです。孤爪先輩よりもずっと白いんです」
「………」
「私、身長低いから背の差だってあるし…」
「………」
「髪も、孤爪先輩の地毛と一緒で真っ黒なんです」
「………」
…意味わかんない。
だから、なに?
「…ゲームも好きですし、熱いのも寒いのも苦手です」
「………」
「だから私とだったら寒いなか屋上に行ったり、熱いなか中庭にいかないで過ごせますっ」
「………」
「孤爪先輩はあんな人となんかっ……」
あー、ほんと、無理。
「…うるさい。 しつこい。 めんどくさい。 …無理」
「…でもっ」
「しつっこいっ」
「………」
「おれ穂波にしか興味ないから。
肌の色、身長、髪の色… そんなのどーでもいい。 …じゃ」
…穂波をあんな人、だって。
意味わかんない。 こんなムカついたの初めてかも。
クロ「…ごめん、お嬢ちゃん。少しは君の肩も持とうかなとは思ってたんだけど…
今のはちょっといただけないかな。自分自分、じゃなくて相手をもっとちゃんと見ようね」
後ろの方でクロが何か言った。
何を言ったかはわかんないけど、多分ムカついたのおれだけじゃないよね?
別に賛同してくれる人が欲しいわけじゃないけど、
でもきっとクロが言った何かも、
後ろから来てるはずのリエーフや犬岡、虎が静かなのも、
多少なりともおれと似たような気持ちになってるからだと思う。