第29章 山茶花
ー研磨sideー
一通りたべ終えた穂波は心なしか眠そうに、
でもご機嫌に歌を口ずさんでる。
たき火の歌。
山茶花も歌詞に出てくる。
穂波といると、いろんな場所いろんなものが
自分のなかで認識されて、思い出と繋がったりして濃ゆくなってく。
山茶花って花の名前も聞いたことはあったし、
山茶花自体はいろんなとこでみるから蓄積された記憶にしっかりある。
実際高校にも木があって咲いてるし。
…でもこの木が山茶花の木で、
これが山茶花の花だって知ったのはついこの間。
そんなのそれぞれの興味対象でいろいろあることなんだけど…
こうやって花の名前とか知っていくのと
穂波との思い出ができてくのが同時に起きるの、いいなって思う。
「…ふぁー……」
お腹も膨れたし、ここあったかいし、眠くなる。
『ふぁぁ……』
穂波も大きなあくびをひとつ。
それから椅子と椅子がくっつくまで近づけて、手を繋いで来た。
…これもう穂波、周り見えてないな。
あったかいのと眠いのとでぽわんとした顔でおれを見上げて、
それから唇を重ねる。
ゆっくり、おれの唇も食べられちゃうのかなってくらいに
どこか美味しそうに吸い付くように。
『…ん、ねむい』
唇が離れると小さくそう呟いて
穂波の瞼がだんだん閉じていく。
頭はおれの肩に預けられてて。
…かわいい
…それにおれも、眠い。