第29章 山茶花
ー研磨sideー
夕飯を食べて、
こたつでみかん食べてたら母さんたちが帰ってきた。
「ただいま〜。 研磨、何ご馳走になったの?」
『ご馳走だなんて… 台所お借りしました』
穂波は明日の朝にと思って…と、
ちょっと遠慮がちにポトフの残りを説明?していた。
「穂波そろそろ帰る? 送る」
『あ、うん。そろそろ帰ろうかな… 研磨くんあしたも朝練あるし、いいよ。
風邪ひいちゃいけないし… わたし自転車だし!」
「…いやいいから、送ってく」
「そうよ、朝練あったってどうせまだゲームしてる時間だし」
「穂波ちゃん、研磨のことを大事に思ってくれるのは嬉しいけど、
ここは何も言わず、いつも通り送らせてやってくれるかい?」
「…ちょっと、父さんも母さんもいいから。2人で話せるから」
「あぁ、ごめんごめん。 …つい」
『…ふふ。 じゃあ研磨くん、変な遠慮はしないね。
だって、少しでも研磨くんといれるの嬉しいもん』
「…ん」
『でも、送ってもらって当たり前とかは思ってないし思わないから、
研磨くんがしんどいときはそれでいいし、無理なくいようね。
…いつも、送ってくれてありがとう』
「…ん」
母さんに渡された手土産を持って家を出る。
11月下旬。夜の空気は冷たい。
自転車に乗って穂波ん家に帰ることもできるけど、
ちょっとでも長くいたいとか思って、並んで押して歩く。
さっきの山茶花の花は、
根元に濡らしたティッシュをつけて、
それをラップと輪ゴムで巻いて持って帰ると言っていた。
何のけなしに、ただ渡したくて渡したものを、
こうも大事にされると… くすぐったいような、不思議な気持ち。
来週末は文化祭。
穂波、2日目のステージに出るらしいから、ちょっと楽しみ。