第29章 山茶花
ー研磨sideー
湯冷めしないように着込んで、手を繋いでアイス屋に向かう。
髪の毛は穂波が乾かしてくれた。
「今日、店の中で食べよ」
『うん、かんたろうが到来している』
「…は?」
『え?』
「いや、え?じゃなくて かんたろう?」
『北風小僧の寒太郎』
「…あぁ かんたろう」
確かに今日の風は冷たいけど、かんたろうって言われても。
「…笑」
『ヒューン ヒューン ヒュル〜ンルンルンル〜ン♪
寒うござん〜す ヒュルルルルルルン♪』
穂波はさも当然と言わんばかりでご機嫌で歌ってる。
曲調も曲調だからなんかおかしいんだけど、
おれがそんな風に思ってるのも全然気付いてないっぽい。
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「おれアップルパイとキャラメル」
『わたしさつまいもと黒蜜きな粉』
今日は穂波も珍しくあまり悩まずに決めた。
二人ともわりとこっくり系だね、とか言いながら。
いつも公園で食べてたから、
店内の小さなイートインコーナーで食べるのは初めて。
『あぁ〜去年も食べたけど、アップルパイ味美味しいねぇ』
「うん、うまい」
『今日さつまいもがあれば絶対それにするって決めてたの』
「…へぇ なんで?焼き芋でも食べたくなったの?」
かんたろうの歌熱唱してたし。
穂波のことだから焼き芋かおでんか…
その辺りに想いを馳せそう
『………』
「…笑 図星だ」
『…歩いてくる間に思ったの。今年まだ、焼き芋食べてないって』
「…そっか 笑」
『研磨くん顔がにやけてる』
「にやけてない」
『………』
「…笑 おれは食べた、この間。母さんがストーブの上で作ってた」
『だよね、だよね。やらなきゃね。また一緒に食べようね、焼き芋』
「…ん」
アイスを食べ終わる頃の店の人が熱いお茶を出してくれた。
今日、寒いですよね、とか言いながら。
店の中から外を見てると、
枯葉が舞っていて、木の枝も電線も揺れていていかにも寒そう。
このあと母さんがいつもいくスーパーに行って夕飯の買い物するって。
…今日、なんだろな。