第29章 山茶花
ー穂波sideー
おかずはほとんど家から作って持ってきた。
研磨くんの家の台所では必要最小限の調理をする。
カジキとカブをフライパンで焼いて、
家で混ぜてきたマスタードソースを絡める。
同時に昨日の夜に作ったビーンチャウダーを鍋に入れて温めておく。
トースターでカンパーニュを軽くトーストしておく。
作ってきたお惣菜と今焼いたカジキをワンプレートになるように盛り付けて…
匂いを嗅ぎつけて来たのか、
ちょうどなタイミングで研磨くんが降りて来た。
「いい匂いがするから降りて来た」
『…ふふ 絶妙なタイミング。今スープよそうね』
「…ん」
研磨くんは何も言わずに当たり前のように
フォークとスプーンを机に並べる。
それから、お水も。 …こういうの、地味に嬉しい。
「魚、ナイフもいる?」
『そだね、あるといいだろうけどなくても全然』
「…せっかくだし出しとこ」
追加でナイフを並べて、研磨くんは椅子に座る。
カジキと蕪のマスタードソース、里芋のアンチョビサラダ、蓮根のガーリック炒め、
ひじきと紫玉ねぎのマリネ、水菜と文旦のサラダ、ビーンチャウダー、カンパーニュ
「なにこれ、店じゃん」
『…そう、欲張って品数作りすぎた。
昨日カズくんと話しながらやってたら止まらなくって』
「…ありがと。 いただきます」
『はい、召し上がれ』
「…スープ、うま。 カズマは食べたがらなかった?」
『…ふふ。 お弁当にして研磨くん家にくる前に、カズくん家に持って行ったよ。
スープもジャーに入れて。 今ごろ食べてるかな』
「…かもね」
今日も研磨くんは、おいしいとたまに呟きながら食べてくれて、
わたしの目尻は下がりっぱなし。
研磨くんのお母さんに昨日電話して、
今日お昼と夕飯作らせてもらっていいか聞いたのだけど…
これはこれでとてもいい。
研磨くんって大学ここから通うのかな。
一人暮らしするのかな。