第28章 しらす
ー白布sideー
【白布くん、おはよう! 昨日はありがとう。 今日も朝練がんばってね】
今朝、穂波からLINEがきていた。
たったこれだけの文章に舞い上がる心地がする。
一見社交辞令のような当たり障りのない文章も、
穂波の場合はきっと気持ちを込めてくれている。
敢えての、短い文章で。
敢えての、当たり障りのない言葉の選択なんだと。
思い込みのようにしか取れない気もするけど、
昨日、会って過ごしてみてそんな確信を持てるような気がした。
昨日で、一緒に過ごすのが9年ぶりというより、
2日目だということ。
顔を合わせたのも3回目だということ。
正直もっとぎこちなさや、距離感があってもおかしくないはずなのに、
一度たりともそんな風に感じなかった。
…変なやつ。
…ほんと調子狂うわ
進路の話で俺がついやってしまった時も、
普通にまとめるっていうか、俺のことまで気にしてて…
昨日は家に帰るとやっぱり母さんは舞い上がっていて、
今朝早く白鳥沢まで送ってくれる車内でも相当うるさかった。
「…彼氏はいるのかしら? 何か聞いた?」
「…さぁ、そんなに話になんかならなかったけど」
研磨って誰か、そいつはどんなやつか、
自分でめちゃくちゃ質問しておいて、とんだ大洞だ。
極力嘘はつきたくない。
相手を思って、ではなく自分のためだ。
嘘は、自分の自由をなくしていく気がする。
つけばつくほど縛られていきそうだ。
それでも嘘をついたのは母さんをがっかりさせないためにではない。
ただ、自分の中で保留案件にしておきたいというか…
そういう気持ちがあった。
保留も何も彼氏はいるのは事実だし、
相当惚れ込んでるのも十分わかった。
どうこうしようとか、そういう思惑は一切ない。
ただそれでも、第三者には彼氏の有無を知られないことで、
何か、自分の中で保てるものがある気がしたんだ。