第28章 しらす
ー穂波sideー
「穂波、遅い」
一旦部屋を抜けて戻って遊児から電話を返してもらうと
ややうんざりした様子の研磨くんの声がした。
『…ごめん 笑』
「…別にいいけど。遊児、将棋するって言ってた」
『うん、持ってきてるね。一局指して寝るかな』
「…ん。俺ももうちょっとやってから寝る」
『あ、ゲームしてたんだね。時間とってくれてありがとう』
「…穂波だから電話したのに、ほとんど遊児に使った」
『ふふ 明日、学校でね。おやすみ、研磨くん』
「…ん、おやすみ、穂波」
それから遊児と将棋を指しながら、
いつものような他愛無い話から
さっきの白布くんとの話の続きみたいな、進路の話をしたりした。
遊児は結構前から、美容師になろうかな〜って言ってる。
センスもいいし、手先も器用だし、
なんて言ったってあの愛嬌やコミュニケーション能力があるから、
いい美容師さんになりそうだなぁって思う。
東京の専門学校行こうと思ってたけど穂波いないんだもんなーとか。
遊児が一人暮らししたいわけじゃないなら、
多分うちは下宿的な感じでお兄ちゃんの部屋とか使えると思うよーとか。
未来のワクワクドキドキする話を、
ふわふわと舞い上がったり濁したり、真剣になったりしながらした。
今日の白布くんの、進路に関することへの容赦ない感じは新鮮で、
自分にとって刺激になったけど、
遊児とのこの感じはやっぱりかけがえがない。
あぁ、おばあちゃん家。
あぁ、宮城。という感じ。
いつもの、があるから、
いつもと違う、を刺激として楽しめるんだなぁってしみじみと感じた。
『やっぱり宮城はおばあちゃん家で遊児と、だね』
何の気無しにそう言ったら、
遊児は大きな声を出して喜んでいた。
明日は早起きして新幹線。
荷物を駅のロッカーに置いて、学校へ行って。
授業の後家に帰って、用意をして花ちゃんのレッスン。
金曜日に会ったばかりなのに、
さっき電話で話したばかりなのに、
もう、研磨くんに会いたい。