第5章 夏
「もたれかかっていいよ」
そう言って腰に腕を回してくる。
言われるままにすこし背中に体重を落とすと、
肩のところに研磨くんの顎がすっぽりと収まった。
横を向いて首筋に顔を埋める。
あぁ…幸せ。
大好きな研磨くんと
物理的に一つに繋がってるときはもちろん
というか一緒にいれるだけでいつもいつも幸せだけど、
こういう風に、肌と肌をくっつけ合う幸せって、なんかすごくあったかくて明るい。
うまく言えないけど、安心する。
………ほわほわするんだ。
「穂波、髪洗わなかったの?」
髪の毛に鼻や顎を埋めて研磨くんは言う。
『…ん。乾かすの億劫に思っちゃって。明日洗う…』
「ん。…ねぇ、フラダンスいつみれる?」
8月に一度あった発表の日、研磨くんは部活で来れなかった。
『…いつかな。秋はいろいろあったと思うけど…
その前にお兄ちゃんからビデオ送られてくるかも』
「…ん。…楽しみ」
そう言って研磨くんはすこし前に肩を引いて、こちらを覗く。
吸い寄せられるように唇が合わさる。
身体をぎゅっと密着させて、
ゆっくりと啄むように口づけを繰り返す………
一度動きを止め、確かめ合うように見つめ合う
まずい…また、研磨くんの目がとろんとしてきてる……
この目に見つめられると……
もう一度、深く口づけ始めたところで…
微に車が車庫に入る音が聞こえた。
『ンッ……帰ってきたかも…』
2人静かに耳をすます。
慌てて出ようとしないあたり、似ているなぁ……
玄関の開く音。
微に聞こえるただいまーという声。
近づいてくる足音。
ガラッ
脱衣所の戸が開く音がした。
『あ、お母さん?お帰り〜』
「あ、穂波入ってたよね。ごめん、ちょっと手だけ洗って出てくね。研磨くん着替えあるの?」
『お兄ちゃんの部屋から借りた〜』
「え、アキのは大きすぎるでしょ。ちょっとみてくるから、上がるのもうちょっと待ってて」
『…はーい。ありがとう、お母さん』
『…ふふっ』
「……もうちょっとだけ、こうしてよ。…ほわほわする」
『…ん』
研磨くんはそう言って
腕で、足で、それから首を掲げて全身で力強く抱きしめてくれる。
後ろから抱きしめられるのって、いい…