第28章 しらす
ー穂波sideー
白布くんが好きな人はわたしだなんて。
小さな頃、一日海で遊んだだだけなのに、今まで。
目を閉じてそんな感慨に耽りながら、
海での1日をもっと思い出せないかなぁと記憶を辿った。
───「賢二郎、〇〇もう一回トイレだって。ちょっと連れていってくる」
弟くんを連れてトイレに行くしらぶくんのお母さん。
「俺ももっかい行ってくる!」
「じゃあ俺もー」
お兄ちゃんたちも走ってく。
しらぶくんのお父さんとわたしの両親は話をしてる。
「穂波、俺思ったんだけど」
『なぁに、しらぶくん』
「今好き同士なら、いまチュウしてもいいんでしょ」
『うん、多分そうだよ』
「じゃあ、今しよう。今度も、しよう。ハグと一緒」
『…しらぶくん、さっきはそんなしたくなさそうだったのに』
「もうほんとにお別れなんだって思ったらやっぱしとけば良かったって思った。
ほら今、最後のチャンス」
そう言ってしらぶくんは車のトランクを開けてバスタオルを取り出し、頭からすっぽりかぶる。
両手でタオルを掴んで端を広げながら、
そのままわたしのこともバスタオルの中に取り込んだ。
「…どうやってするのかな」
『チュッてお口にする』
「穂波がして」
『いや。しらぶくんにされたい』
「………」
目を瞑って待ってると、しらぶくんの唇がチュッと当たった。
柔らかーっくって、暖かかった
唇と唇が触れただけなのに、
緊張とか恥ずかしいとかじゃない熱さが身体中にじわーと広がった。
「なに今の。穂波何かした?じーんって身体が変な感じした」
『なにもしてない。わたしも、じわーってなった』
「チュウって変だな」
『チュウって変だね』
「…もっかいする?」
『うん』
「次は穂波がして」
『うん』
お父さんとお母さんはさっきみたいなチュッもするけど
違うチュウもする。それをしてみようと思った。
チュッは朝とかいつもの時。
今からするのはお父さんが撮影でしばらく家を留守にする時のやつ。
しらぶくんのほっぺに両手を添えて
ぶちゅーってする。
なんだかお父さんたちとは違う感じがしたけど、
わたしなりに再現してみた。