第28章 しらす
『もう一つの約束って何だったかなぁ?わたしが言い出した?』
身体を寄せたまま、俺を見上げて聞いてくる。
「…まぁ、うん」
『それも今できるかな?』
「…またでもいいんじゃないかな」
『そっか』
「今してもいいなら、するけど」
『今できるならしよう』
「…じゃあ、する」
『うん』
「穂波、俺のこと好き?」
『うん、好きだよ』
…だいぶ姑息なやり口だけど。
「俺も好きだよ」
『…ふふっ』
片手を顎に添えて、そっと近付いて…
「…。 …やっぱできない」
『…?』
「そんな、ぽかんとした顔してるけどさ」
『…』
「…」
『…』
「彼氏以外の男にキスされたことある?」
『へっ』
「絶対あるな、こんだけ隙があったら余裕だし。気をつけなよ」
『…約束って』
「そう。好き同士はキスするんだってさ」
『…』
「穂波情報」
『…ごめんね、突拍子もないこと約束させて』
「いいけど別に。ずっと覚えてたわけじゃないし」
『…今度会った時の約束する?』
「…例えば?」
『しらす丼を食べるとか』
「…」
『何でもいいの、次は白布くんが決めて』
「そんな無茶振り… ていうかそろそろ離れよう」
『あ、そうだね』
横に並んでまた、庭を歩く。
意気地なしと言われるかもしれないけど、キスできなかった。
好きって気持ちも結局誤魔化してる。
行動に移すこと、俺にできるだろうか。
「…穂波の作ったもの食べるとか」
『ほぅ』
「映画館に行く、とか」
『ふむ』
「何その相槌」
『…なんとなく。 白布くん、好きな人いる?』
「は?」
『ふふ、ちょっと思っただけ』
「…いるけど、諦めようと思ってた」
『そうなんだ』
「まぁ今も狭間。でも多分無理。諦めるっていうか忘れるのは無理」
『忘れる必要があるの?』
「忘れないとずっと好きだから」
『ずっと… 白布くんはきっと一途なんだろうなぁ』
「…」
『…中入る?寒くない?』
「小2の時から好きなんだよね、その子のこと。一途すぎて重くね?」
『そうかな、そうは思わないけど。わたしなら嬉しい』
「…鈍感」
『ん?』
「彼氏ってどんなやつ?サーファー?」