第28章 しらす
ー白布sideー
予想以上に母親がべらべらと喋る。
あの時、兄が溺れていたら…
きっとそんなことを何度も想像したんだろう。
だからある程度は許容範囲ではあるんだけど…
俺が穂波といるととか、そんな話はその範囲外だ。
それでも何も言わずに我慢しているうちに、
俺に今日穂波と一緒に誕生日会に行ってきたら?なんて言い出した。
トーンこそさほどでしゃばった感じはないとはいえ、
心の中は相当舞い上がってる、この人。
まるで俺にいい縁談が来て、
それを逃すまいとしているかのような、話の展開の仕方。
この先の予定の組み方。
『あ、でも気軽に誘ってしまったけれど、
久しぶりに賢二郎くんが帰ってきているのにわたしがお借りしてもいいんでしょうか?』
「そんなの良いに決まってるじゃない!
私たちは賢二郎には会おうと思えば会えるんだから。
でも2人はそうもいかないでしょう?
穂波ちゃんのおばあさまが了承してくださるならこちらとしては喜んで送り出します」
「…母さん、勝手に話進めないで。帰りはどうするんだよ」
『おばちゃんに送ってもらえるように頼むよ、わたし』
「あらほんと?でも、わたしが迎えにいくわ」
そのまま挨拶とかする気だ、この人。
お礼に止まらず、要らない挨拶も絶対始めそう。
勝手に話が進んで、
俺も穂波の親戚の人の車に同乗することになった。
明日、鷲匠監督や白鳥沢の寮母さんに渡すため、
用意していた手土産を持たされて。
明日の分は今から三越に買いに行くって。
…本当に張り切っていて、忙しない。
穂波の親戚の方と母さんが家の前で話して、
帰りも送ってもらえることになった。
母さんはあからさまに残念そうな顔をしていたけど、
俺としては今の母さんには付き合いきれないからありがたい。
半ば無理やり流されたみたいな感じだけど、
穂波と長くいられるのは正直、かなり嬉しい。