第28章 しらす
ー白布sideー
『今日、おばあちゃんのお誕生日会があるんだけど、白布くんも良ければ来ない?』
…この感じ。
本当にあの日のままだな、この人。
この人自体の感じもだし、
俺も俺で普通に喋れてしまう感じが、あの日に感じたまま。
「それは遠慮しておく。親戚の人、何時ごろ来るの?」
『あと30分くらいかな』
そこまで話したところで魚屋のおじさんが出てきて品物を受け取る。
俺はしらすを2つまとめて買った。
「あの、さ。母さんも父さんも家にいるから、顔だけみせてやってくんない」
『へ?』
「うちの親からしたら、穂波は息子の命の恩人なんだよ。
あの日も改めてお礼がしたいからって穂波のご両親に連絡先とか聞こうとしたけど、
教えてもらえなかった、ってたまに話してる。今でも」
『へっ あっ 白布くんってわたしのこと穂波って呼んでたっけ』
「………」
時折みせるこういう間が抜けたとことかも、変わらない
「近くはないけど、顔見せるくらいなら30分以内にできるから。
親戚の人に俺ん家の住所伝えてもらって。
この街中で拾うより、住宅地で拾う方がラクなんじゃない?」
『あっ、うん。じゃあ、どうせ時間あるし、そうする』
穂波の持ってる魚の袋を半分もらって並んで歩く。
…こんなこと起きるなんて誰が思う?
でもこれなんだよ、想定外がすごい普通に起きて、不思議なほどすんなりと受け入れられる。
今までもそうやって遭遇してきた。
俺に話しかける勇気がなかっただけで。
一度声をかけてしまえば、流れるように会話や状況が進んでいく。
『…わたしね、名前とか結構覚えてられるんだけどどうしてあの時思い出せなかったんだろう』
「…さぁ。あの日から今日まで穂波が何してたかも知らないし」
『あっ白布くん、昨日お疲れさま。白鳥沢、すごくすごくって、圧倒された』
「…牛島さん」
『うん』
「牛島さんのバレーを見て、白鳥沢に行こうって決めた」
『そうなんだ… 東京の友達にもそういうこと言ってた子がいる。
その子もセッターで、ある人の試合を見て、学校を決めたって。
そんな存在に出会えるってすごい、幸せだね』
「………」