第28章 しらす
ー穂波sideー
商店街のお店はもう閉まり始めていて、
おばちゃんが電話で取り置いてもらったものを受け取りに魚屋さんについた時には
店頭にはほとんど何も残っていなかった。
でも、しらすがあった。
ビニール袋に入ったしらすが2袋。
…しらす。
名前を伝えると魚屋のおじちゃんがちょっと待っててね、と中に入っていく。
しらす、買って帰ろうかな。
おじちゃんを待っている間、しらすを見つめてぼんやりと想いを巡らせる。
『しらす… しらぶくんはしらすがすき…』
「は?」
…ん?
は?って言われた?
きょろきょろしてしまう。
最後に左後ろを振り向くと白布くんがいた。
『…え』
「…今なんて言った?」
『白布賢二郎くん!』
「…誰に聞いた?天童さん?五色?」
『しらぶくんはしらすがすき』
「………」
『名前にらぶがある素敵な名前』
「………」
『一緒に夕日、見た!』
「…ッ……」
白布くんは頭を抱えてしゃがみ込む
『あ、ごめん。いきなり喋りすぎちゃった… 思い出したの。
そしたら、会いたいなって気持ちが膨らむばかりだったから』
「…もう忘れようと思ったのに、なんなわけ」
『…ん?』
小さな声で白布くんが何か言ったけど聞き取れなかった。
「…はぁ ここでなにしてるの?」
『ちょうど今日仙台にきてて、お店が閉まる前に取り置いてるお魚受け取るように親戚に頼まれて』
「…ふーん」
『白布くんってこの辺りに住んでるの?』
「あぁ、いや…実家はこの辺りなんだけど、今は寮」
『そっか、白鳥沢は寮があるんだね』
「…昨日負けたから、珍しく今日は午前中の自主練だけで。久々に実家帰ってきた」
『…しらす、買うの?』
「別にいいよ、大人数集まるんでしょ、買って帰りなよ」
『ううん、しらすは個人的に欲しいだけだから。一つずつ買おうよ』
「…変わんないね」
『…あはは、子供っぽいよね、わたし』
「…どっちもの意味で」
『…? ねぇ、寮にはいつ帰るの?』
「…今日の夜か、明日の早朝。朝練あるから」
『そっか』
土地勘がないからわかんないけど、
せっかくだしダメ元で誘ってみよう