第28章 しらす
ー月島sideー
烏野に帰るバスに揺られながら、
今日のことを思い出してる。
眠ろうとと思って目を瞑っても、
博物館やカフェ、それからホテルでの寝顔とかが思い浮かんでしまう。
些細なこと、表情、会話。
ずんだ餅を買いに寄った和菓子屋では目に涙を浮かべていた。
食い意地がはってるのかと思ったら、
和菓子の佇まいに感動して涙が出てくるんだと言っていた。
駅まで歩いている途中、何か飲み物いる?と聞かれた。
ココアが飲みたいかも、というと嬉しそうに微笑んで、
ちょうど通りがかったファッションビルのフロアガイドをみて
『ちょっと2階まで行ってもいい?』
と言った。
僕のバスはまだ時間があって、
穂波さんはホテルを出る際に携帯をみたら買い物を頼まれていて、
仕事終わりにおばあさん家に向かう親戚の車で帰ることになったと言っていた。
スイスのチョコレートブランドの店まできて、
穂波さんは目をキラキラさせて
『わぁ、色々あるよ。どれにする?ジャンドューヤのもあるんだね』
とか言いながら、
2人ともプレーンなホットチョコレートにした。
僕はミルク、穂波さんはビター。
博物館の分、と言ってたけど明らかにこっちの方が値が張るしと思いながら。
ここでごたごた財布出し合ってもな、と思ってありがたく受け取った。
穂波さんはチョコレートもいくつか買っていて、紙袋を2つ持っていた。
親戚が集まるらしいしお土産だろうな、と思っていたら
バスに乗る前に一袋渡された。
『蛍くん、代表決定戦、優勝おめでとう。春高がんばってね。それから、素敵な一日をありがとう』
そう言って。
思わず抱きしめてしまうほど嬉しくて、愛しかった。
…ほんと欲しい。この人。 そう思った。
なのでいま僕は、ホットチョコレートを飲みながらバスに揺られてる。
今日でまた、いくつもの足跡をあの人につけられた。
おそらく高校卒業後に通うことになるだろう東北大にまで思い出ができてしまった。