第28章 しらす
ー穂波sideー
「穂波さーん。それ以上やったら襲いますよ」
…ん?
蛍くんの声がする。
目を開けると、ラベンダー色。
すんすんすると蛍くんの匂い。
『あわ!』
映画が終わって、蛍くんの寝顔はやっぱり綺麗だなぁだなんて思って、
まだ時間あるしもう少し寝かせておこうってして…
わたしもちょっと横になって… そして…
「…笑 良かった、起きた。襲われるかと思った」
蛍くんは肘をついて横になったまま笑いながら言う。
今日初めてみた、蛍くんのいたずらっぽい笑顔。
…この顔、ゾクっとするんだよな …ってそんなこと考えてる場合じゃない
『ごめん、蛍くん、わたし何も変なことしてない?』
「変なことってどんなこと?」
『いや、その、わかんないけど…』
「されてないよ。 …普通、僕に変なことしてないか聞くとこだと思うけど」
『…そんなことは思わないし、聞かないよ』
自分が寝ながらくっついておいて人を疑うとか、
そんな力を、余裕を、わたしは持ち合わせてない。
「僕思うんだけど」
『ん?』
上体を起こそうと手をついたら、
その手をぐっと掴まれて蛍くんの方に引き寄せられる。
「穂波さんは、金輪際、僕と彼氏以外の男とベッドに座らない方がいいと思う」
『………』
「もう一つは、成人して酒飲むようになっても、僕か彼氏がいるとこでしか飲んじゃダメだ。
まぁそれも、僕か彼氏が酔い潰れないっていう前提だけど」
『………』
「…って何言ってんだ僕」
『…やっぱわたし何かした?』
「えぇ、もう。あんなことやこんなことを」
『…あぁ、ごめんなさい』
「いえ、僕にとっては得しかないんで。手を出せないのがネックなだけで。
でも今日は、手を出さないって約束でここに来たから」
『…あんなことやこんなことって』
「…笑 それはご想像にお任せする」
『………』
「うそうそ、何もされてないよ。そんなことより、さ」
『………』
「もうそんなに時間ないし、こんな話するんじゃなくてずんだもち食べよう」
あ、そうだ。
結局買ってきたもの何一つ食べてない。