第28章 しらす
ー穂波sideー
ケーキも紅茶も美味しくいただいて、
お店の外にでて大学の敷地を歩く。
蛍くんは途中、さっとわたしの手を取って握った。
どきっとする。
今日の蛍くんはいつもより割増で優しくてかっこいい。
「…ほら、できそう」
『…ん?』
「仙台にいるもうひとりの彼氏」
『へっ』
「僕にならできると思う」
『なっ』
咄嗟に振り解こうとしてしまった手を
蛍くんは強く握り直す。
「…っていう設定で。楽しませてもらってるんで」
『………』
「今日はおばあさんの誕生日?」
『うん。日中は発表会でね、だから夜に親戚が集まるんだ』
「発表会?」
『おばあちゃん、お琴とお茶の先生なんだけど。今日はお琴の発表会』
「へぇ… あぁ、和装してする習い事ってそれだったんだ」
『うん』
お腹が満たされたのもあってか、
蛍くんはどんどんと眠た気な顔になっていく。
手もあったかい。
いつでも寝れるって感じだろうな。
…だって、昨日の試合だけでもすごい運動量なのにその前の2日間に3試合もしてるんだもんね。
『ねぇ、蛍くん。植物園はまたにしようか』
「え?」
『キャンパス内も緑が多いし、満たされちゃった。
蛍くん横になりたくない?』
「…まぁ、横にはなりたい」
『…ベンチとか、蛍くんが横になれるとこでゆっくりしよう』
わたしは芝生でごろごろするのが大好きだけど、蛍くんは違うかなぁとか。
それに曇ってきて、さっきより空気が冷たい。
地面もきっと冷たいだろうな、とか。
「…横になるって言ってもね。外で寝転がるのは寒いし」
『だよね、歩いてた方があったかいか』
「…ていうかデート中に寝たいとかありなの?」
『え?そりゃ時と場合によるけど、わたしは基本大ありだよ。あ、映画館とか?』
「わざわざお金払って座って眠るのは嫌だな」
『…そうだよねぇ』
「…横になって映画観れる場所はあるけど」
『お!どこどこ?』
「ネカフェ」
『ネットカフェ?行ったことない!』
「そんな目をキラキラさせるけども。狭いからヤダよ僕は」
『…そっか』
「それか、ホテルかな」
『ホテル?』