第28章 しらす
ー穂波sideー
東北大学の敷地内にあるカフェにきてる。
窓際の席に座れたのだけど、
木々に囲まれていて景観がとても良い。
東京に比べてやっぱり寒いので、紅葉も進んでる。
黄緑、黄色、黄色とオレンジの中間の色…
ちょっとフライングしたのかなぁっていうもう真っ赤になってる木。
桜でも紅葉でもなんでも、
一本ちょっとみんなより早い子っていうのが大体どこかしらにいて、
そういうのはとても微笑ましい。
…綺麗。
「………」
『…ふふ』
「…はぁ」
『蛍くん、疲れた?』
「…そうですね」
『植物園はまたの機会にして、この後どこかで寝転がる?』
「…いや、そういうんじゃなくて」
『…?』
「綺麗すぎて疲れます」
『あぁ…ほんとだよね。綺麗。こことっても良いね』
「…そうですね。 …それにかわいいですし」
…かわいい、か。
『…あ、あの一本みんなより早く紅葉してる子?
うんうん。ああいう子見つけると、和む』
「…そうですね、そういうとこが、かわいい」
『…ふふ 蛍くんもそんな風に見てるんだね』
「そうだね、そんな風に見てる」
蛍くんは今日、あまりからかってこない。
優しい目で、終始見守られている感じで、どきどきしてしまう。
雰囲気も落ち着いているし、背も高いし、知的だし、
無邪気でからかうのが好きな一面を表に見せないでいると、
本当に年上のお兄さんみたい。
なのに、弟気質の可愛さを持っているとこが、ずるいんだよなぁ…
いま、頼んだお料理を待っている間も
頬杖をついて窓の外を眺めて…
それからこちらに目を向ける。
ワンプレートにのったお料理が運ばれてくる。
サラダのお野菜も彩りが鮮やかで、綺麗。美味しそう。
蛍くんはパスタランチ。
サーモンと木の子のレモンクリームパスタ。
わたしは普通のランチ。
秋野菜のラタトゥイユ。
ショーケースに並んでたケーキも美味しそうだったから、
2人ともセットのドリンクは食後に持ってきてもらうことにした。
蛍くん、甘党だからな。
今日もケーキ一緒に食べれたら、って思ってた。
2人手を合わせて「いただきます」をして、カトラリーに手を伸ばす。