第28章 しらす
特別展の猫の絵画は思いの外おもしろかった。
穂波さんの言う通り
顔料で彩色されていると思うとそれだけで感慨深いし、
浮世絵に描かれる人と猫の距離感だとか、
今も昔も変わらない猫の存在感だとか。
化け猫の絵もおもしろかった。
招き猫が80体近く展示されたコーナーでは
穂波さんの目が綻んでいて、正直たまらなかった。
現代のいわゆる招き猫と比べて
目も小さく、表情が柔らかい。
最後はおもちゃ絵が集まっていて、
あくまでも落ち着いたトーンでだけど、
ここではよくしゃべった。
双六やりたいな、とか
これすごーいだとか、
いい遊びだなぁ… 素敵なぁ…だとか。
そんな他愛無いことでも、
何か一つの対象を共有しながら話すのは…いい。
土産屋で穂波さんが葉書とかをちょっと買って、博物館を出る。
館内にもレストランはあるけどせっかくだしどこか別のとこに。
『蛍くん、おもしろかったねぇ。連れてきてくれてありがとう。
猫をもっと好きになってしまった』
「うん。 …お腹空いてる?」
『ぼちぼち。 蛍くんは?』
「僕もぼちぼち。 どっか入って食べよっか」
何もかも調べてデートプラン、みたいなのは
今回はどこかくすぐったい感じがしてやめた。
この辺りは店も多いし、何かしらあるでしょ。
『フォークで食べるのがいいよね』
「あぁ、そうだね」
手のことにやたら触れてきたりしない。
でもこうやってちゃんと考えてくれてる。
「手、繋ぎます?」
『へっ』
「折角デートだし、手繋ぐくらい良いでしょ」
『…いいのかな』
「良いんだよ。ほら」
半ば強引な誘いだけど左手を差し出すと
穂波さんは少しの間のあとその手を取ってくれた。
そっと握って道を行く。
『蛍くん、あのあたりの緑地は公園?』
「あぁ、東北大学」
『へぇ…』
「植物園もあるはずだけど… いってみる?」
『植物園… 行きたいかも… うん』
「大学の敷地にカフェがあるはずだからそこ行って、それから植物園行く?」
『わぁ、いいね。蛍くんはそれでいい?』
「うん」
…ほらやっぱり。
この人といると無理することなく いろんなことが流れていく。