第28章 しらす
ー月島sideー
『…でも、これからもさ、こういうことあるならさ、一緒に出そうね?』
こっちは諦めてるわけじゃないけど、
でも今日のこの時間を最後かもしれないとも多少は思ってる。
次も約束はするつもりだし機会はあるだろうけど、
海外の大学へ行くと前に話していたし、いつでもいつまでも訪れることじゃない。
それをこの人はあっけらかんと…
天然たらしこわっ…
それにまんまと僕は乗せられてるわけで。
常設展をゆっくりと観る。
穂波さんは陶磁器や漆器、それから地図・絵図を特に楽しそうにみていた。
自分が見て楽しむだけでなく、
好きな人がみてるその姿、表情を見て楽しめるなんて知らなかった。
それにやっぱり穂波さんは五月蠅くない。
…ほぉ とか わぁ とか呟いてじっくりと眺めたり、
たまに僕に話しかけてきたり。
ここでの楽しんでいるというのは、
会話が盛り上がることでも、一緒に笑い合うことでもない。
この人といるといろんなことを
その場に合った形で楽しめそうだな…
…というか、私服姿がまたかわいい。
シンプルなんだけど、よく似合ってる。
一つ一つの質がいい。サイズ感がばっちり。
合宿でしか会ったことがないから、私服どころか制服姿も見たことがなくて、
ジャージか部屋着しか見たことなかったし…
デニムジャケットの下に黒いVネックニット、
黒いコーデュロイのロングスカート、黒いコンバースのハイカット。
鮮やかなグリーンのてろんとした綿のトートバッグ。
…ていうか僕たち服装の色味若干被ってるじゃん。
今更気づいた …くそ
並んでる僕らを見て兄貴がやたらとニヤニヤしてたのは
そんな理由もあったのかと思うと…
…まぁ、いやではないけど。
黒なんて王道な色が被ることは別に大したことじゃない。