第28章 しらす
『はじめまして!運天穂波です。
こちらこそ、いつもお世話になりっぱなしで… えっと…』
「呼びやすいように呼んでもらえれば」
『明光くん…でもいいですか?』
「うん、それが嬉しい。 ぅわ、やばい、ちょっと感動してきた」
「ちょっと兄ちゃん、やめてよね」
「あぁ、うん、そうだな… じゃあとりあえず車乗って?ってすぐ着いちゃうけど」
「別に時間あるならどっかでお茶してけば」
「いやっ 蛍に悪いしいい!乗って乗って」
蛍くんの表情も声も、いつもと同じようなんだけど…
本質的なとこでたしかに何かが違う。
きゅんきゅんしちゃう。
「ちょっとだけ遠回りさせてねー」
そんな風に言って、明光くんは話題を振ってくれていろいろな話をした。
わたしのお兄ちゃんのこと、蛍くんの小さい頃のエピソード。
ところどころで蛍くんに制されながら。
そんなやりとりも微笑ましくて、
やっぱり家族の方に会えると一層その人のことを知れるなぁとしみじみした。
駐車場で明光くんとさよならをして、蛍くんと博物館へ向かう。
「来たことある?」
『…小さい頃におじいちゃんと何度か。最近はめっきり』
「そっか、猫はすき?」
『猫?うん、猫すき』
「今、特別展、江戸時代から明治時代の猫の絵だって」
『へぇ、あ、ほんとだ』
エントランスに特別展のポスターが貼ってある。
『わぁ、綺麗だね。楽しみだな』
「穂波さんが楽しめそうならよかった」
蛍くんは当たり前のようにチケットを2枚買って入場していく。
『蛍くん、ごめんボケっとしてた。わたしちゃんと払うからね』
「あぁ、うん。ここ安いし、いいよ」
『うん。じゃあ今回は。うん。 蛍くん、ありがとう。
…でも、これからもさ、こういうことあるならさ、一緒に出そうね?』
「これからも、こういうことがあるなら」
『…わたしじゃなくても、さ!ほら、ね? 高校生同士だし、さ!』
「デートですもんね」
『…ん』
デートと言われると、恥ずかしい。
でもデートじゃない、とは言い難いし…
これは、お出かけである。
うん。