第28章 しらす
「工はまず、次会う時までにもーっとかっこよくなってないとだもんねぇ」
バスへ向かって歩きながら天童が言う
「そうっすね!自分、バレーもっと上手くなります!」
「うんうん」
「…でもどこで会えるんだろう 仙台に住んでるのかな」
「海が、好きそうな感じはしたけどねぇ どうだろうねぇ」
「海!そうですね!」
「…あの人、宮城の人じゃないよ。きっと今も」
「えっそうなの!?どこ?県外からわざわざ?」
「東京からかと。何でバレーの試合を見にきたのかはわからないですけど…
×××におばあさんの家があって、それでこっちにはたまに来るみたいですけど」
「賢二郎、覚えてもらってないのに詳しいんだね」
「………」
「ごめんごめん、そう言う意味じゃないんだよ?
少しだけあった繋がりを大事にして覚えてるんだなぁって思っただけ」
「………」
ー白布sideー
まさかこんな場所で会うとは思ってなかった。
幼いころに一度遊んだだけ…
その時に抱いた小さな恋心を、
密かに抱き続けてたなんて誰にも言えるわけがない。
ずっと、考えてるだとかそういうことは全くない。
そんな暇な人間じゃないんだ俺は。
ただ、何故か忘れた頃に遭遇する。
海にこそもう行くことなんかなくなったけど、
それでも仙台市のどこかで見かけるんだ。
図書館、商店街、百貨店。
×××から近くはない仙台市で、
東京から祖母の家に帰省している彼女に遭遇するというこの確率。
こじつけてそこに何かを感じてしまったりもした。
…だから結局ずっと忘れることができなかった。
その上今日は、話しかけてしまった。
俺のことなんて覚えてないだろうけど、とは踏んだ上でだったけど…
彼女なら、もしかして…って思ってる自分も確かにいた。
もう、会うことはないだろうし…
いや例え見かけたとしても、もう話しかけるなんてことは絶対にしない。
だからもう終わりにしよう。
馬鹿馬鹿しいったらない。