第28章 しらす
ー穂波sideー
わたしも帰ろう。
行きはバスで来たけど
仙台駅まで電車に乗ってみようかなとか考えながら歩き出す。
あれからずっと頭の片隅にしらぶくんがいる。
けど、あれ以上何も思い出せてない。
あぁ、急激にお腹が空いた。
しらす丼食べたいな。来週鎌倉行こうかな。
あ、鞄に非常食が入ってるんだった。
ドライフルーツとナッツをペーストにして丸めたブリスボール。
小さな容器を鞄から取り出そうとよそ見をしながら歩いていると…
とすんっ
誰かの背中にぶつかってしまった。
お前はよそ見しながら歩くなって、いつもお兄ちゃんに言われるのに…迂闊…
『あっ、ごめんなさい』
半歩下がって見上げると、白鳥沢学園の赤い髪の人。
後ろににゅんっと腰を逸らせて、顔を覗き込んでくる。
「ぜーんぜん!キミは大丈夫?」
『あ、わたしは、はい』
「それ何が入ってるのぉ?」
手にしている小さな容器を細く長い指で指す。
『ちょっとした食べ物が』
「へぇ、みせてみせて?」
うわぁ、すごい、国内外で色んな人に会ってきた方だと思うけど、
この人結構指折りな感じだ。
溢れ出る、異質感というか、そういうのが。
わざと人と違うことをする人もいる世の中で、
彼みたいなひとは人と同じことができない性質の人、というか…
それ故それなりに幼い頃から苦労も多くて…
その、ベースにある経験からか、優しい人が多い。
その優しさが伝わりにくいことも多いけど…
あくまでも、わたしのイメージであって、決めつけではない。
…でもきっと彼も、優しい人だ。
『…こんなの』
「わぁ これはチョコレート?キミが作ったの?」
鼻をスンスンとしながら彼は言う
『んと、チョコではないけどチョコ感強めにした』
「だよねだよね〜 ココアの香りがする。俺チョコレートだーいすき!」
掴みにくいそれまでの表情とは打って変わって
突然ふわふわのほっわほわなかわいい顔になる。
ま、ず、い… ときめく、これ…
『あ、良ければお一つどうぞ。お口に合えばいいですが… ナッツ大丈夫ですか?』