第28章 しらす
ー月島sideー
「あ!ほらツッキー、穂波ちゃん来たよ」
僕と話すことなくどこかへ走っていったかと思うと、
また戻ってきた。 …よかった。
不機嫌になりかけた。
いや、なってたのか?
『蛍くん、山口くんっ』
明るいのに落ち着いていて、疲れた身体と脳にも負担がない。
この人の声、笑顔、佇まい。全て。
『今日はひとまずこれを渡して、来年、東京体育館で!』
僕と山口に紙袋を差し出してくる。
東京ばな奈だ… やった、甘いもの。
「ありがとう、穂波ちゃん。じゃあツッキー、俺先にバス乗ってるね!
またね、穂波ちゃん!」
『うん!ゆっくり休んでね! …蛍くんも』
「あした、仙台行きます。兄貴が車出してくれるんで。また連絡しますね」
『え、うん! …でも本当に無理しないでね。
やっぱ無理、って言われても平気だから。ドタキャンもOKだからね』
「うん、わかった。 じゃあ、もう一回ハグして」
さっきは否応なく抱きついてきたくせに
いまは途端にもじもじしてる
…だからこれ、かわいすぎるんだって
『…蛍くん、お疲れさま。それからおめでとう』
そう言って控えめにハグしてくる
僕もそっと腕を回してハグを返す。
『手、大丈夫?』
「痛いけど…まぁ、大丈夫」
『蛍くん、すごくかっこよかった』
「…そういのいいから。 じゃあ、またラインする」
『うん、ゆっくり休んでね』
あまりゆっくりしてると田中さん達に何か言われそうだし…
穂波さんの元を去る。
ヘッドホンを耳に当て、バスに乗り込む。
…はぁ、疲れた。
けど、試合後に穂波さんに会えるのは想像以上に良い。
癒された。
…さっさと僕の彼女になってくれればいいのに。