第28章 しらす
しらぶ… しらぶ… しらぶ…
え、かわいい音。
どんな漢字だろう、苗字かな。
Vの音じゃないけど、でも らぶ って音があるなんてかわいい。
しらぶ… しらぶ… しらぶ…
あれ、どこかでこんな事、前にも思ったことがあるような、ないような…
表彰式を眺めながら、どうしても考えてしまう。
『…しらぶくんはしらすがすき』
あれ、これいつどこでわたしが言った言葉だろう。
断片は思い出せるけど、大事なとこが抜け落ちてる。
…帰ったらおばあちゃんに聞いてみよう。
何か、知ってるかな。
・
・
・
「ぅおーーーー!!!穂波ちゃん!!!」
『翔陽くーーーーーん!!! …って、わっ!』
勢いよくこっちに走ってきた翔陽くんは目の前でふにゃりと崩れ落ちた。
すごい運動量だったものな。
さすがの翔陽くんもこんな風になるよね、うん。
『翔陽くん、お疲れさま。 そしておめでとう!』
わたしもしゃがんで話かける。
『翔陽くん、今何か食べれそう?』
「ふぇ… あぁ… 急激に腹が減ってきた…」
『あわわわわ…ごめん!甘いのでも食べれるかな?
お土産とかあるんだけど、えっとロッカーに入ってて。
今、すぐ渡せるのはこれだけなんだけど…』
翔陽くんが東京に来るたび、
東京ばな奈が食べたいって言ってたと研磨くんから聞いていた。
ロッカーに東京ばな奈の箱は入っていて、
カバンの中には「お味見どうぞ」ともらった個装のチョコブラウニー味なるものが一つあるだけ。
それを差し出すと、翔陽くんは目をキラキラさせて受け取ってくれた。
「えぇ!?いいのぉ?」
『うん、どうぞ。普通のはこのあと誰かに渡しておくね』
「マジ!?まだあんの!」
一口でそれを食べ終えた翔陽くんは、すこし元気が出たのか
立ち上がってありがとう!って言った。
『うん。じゃあ、東京体育館…だったっけ? 観に行くからね。またね、翔陽くん』
くたくたの翔陽くんをハイにさせてまた動かせたいわけじゃない。
甘い甘い東京ばな奈が注入されてハイになり切る前に、バスへと向かうよう促したかった。