第28章 しらす
「表彰式始まるから、俺ももう行くね!また後でね!」
『あ、うん!山口くん、あとでね!』
山口くんが走って去ってく。
2階のトイレが混んでたから下に来たけど…
表彰式も観客席からの方がみやすいかな。
…見やすいよね、きっと。うん。
階段の方へ歩いてると蛍くんが小走りでこっちの方向に来る。
「わ。穂波さん。 どこにいたの?」
『蛍くん!』
「ちょっと、今は汗すごいから …って……」
蛍くんにぎゅうとハグをする。
こうせずにはいられない。
こうせずにはいられない!
本当にすごかった、かっこよかった、感動した、心が震えた!
何一つ上手く言葉にはできないから、
全部ひっくるめてハグに込める。
蛍くんは汗がなんだとか言ってたけど
観念したように、わたしの腰に腕を回してぎゅっとしてくれる。
「会えて、嬉しい。まだ帰らないよね? ちょっと僕、表彰式に行かないといけない」
『あっ、ごめんね、蛍くん』
「いや、そんな。 じゃあ、また後でね。先に帰らないでよ!」
さらっとそんなかわいい言葉を吐き捨てて
蛍くんも走って行く。
・
・
・
『…お疲れ様です』
蛍くんが身体から離れて視界に入ってきたのは
白鳥沢学園のセッターの人だった。
冷たそうな熱そうな… 不思議な目。
その目は今、赤く腫れてる。泣いていたのは観客席から遠目に見た。
知的な雰囲気とちょっと個性的な髪型のアンバランスさが色っぽい。
会釈をして階段へ向かう。
「…あの」
『 ! 』
思わぬ声掛けに不必要なほど驚いてしまう
「多分俺、あなたのこと知ってます。会ったことある」
『へっ… ぇと』
「運天穂波。 …合ってる?」
『わ! はい、そうです…けど』
…うそ、どこでだろう。
ちょっと、思い出せないな…
え、宮城の人だよね んーと………
「白布さーん!もう始まります!」
…しらぶさんというらしいその人は小さく会釈をして
かわいい8番くんの声がした方へ走って行く。
ええええ!
すっごい気になる感じのまま、置き去りにされちゃった
でも表彰式だもんね、しょうがない