第27章 アップルパイ
『ねぇ、研磨くん』
「…ん?」
曲げわっぱのコーナーで穂波に話しかけられる。
『長方形のと楕円のと丸いのとそら豆の形の、どれが好き?』
「…んー、長方形かな」
『ふむふむ… こんな細長い長方形もあるよ。なんか、スタイリッシュ』
「ほんとだね」
『小さめの二段と、普通の一段とどっちが使いやすいかな?』
「穂波が詰めやすい方でいいんじゃない?」
『…一段のわっぱは家にもあるし、二段にしようかな。
研磨くん、好きな木目のある?』
「え、おれ?」
『うん、研磨くんにこれプレゼントしたい。
目の前で選ぶのってちょっと不思議な感じだけど、
今わたしたち、誘われるみたいにこのお店に来たよね。
だから、そういうことなのかなぁって』
「………」
『わっぱは取り扱いに少しだけ手間が必要だし…
うちに置いておいて、わたしが作る時に使って
研磨くんが食べ終わったらわたしが持って帰ってってすればいいかなぁって』
…考えてたことそのまんまだし。
『…どうかな?』
「え、あ、うん。嬉しいけど… いいの?」
安いものではないから…
『うん。ピンときた』
「…じゃあ、うん。 …えっと、選べばいいんだよね?」
『うん、好きなやつ』
「あ、でも待って。なんかおれ選びたくないかも。
穂波に選んで欲しい。 …んと、おれあっちの方行ってる」
『へ? あ、うん。 わかった。 じゃあ終わったら声かけるね』
おれが選んで買ってもらうってなんかちょっと、ダサいっていうか…
奢ってもらってるみたいな…
お互いに働いてて、とかいう関係なら違うんだろうけど、
穂波は自分のスキルでお金稼いでるわけだし、
それ以外にも手伝いとかしてバイト的なこともしてる。
おれはまだ小遣いでやりくりする身だ。
穂波にそんなつもりがなくても、ちょっとおれ的にやだった。
穂波が選んでくれたら、
プレゼントととして、受け取りやすいなとか。…とか。