第27章 アップルパイ
空は夕焼けに染まっていて、
電線や電柱とかが影絵みたいに黒く見える。
『秋は夕暮れ 夕日の差して いと近うなりたるに…
… 日入りはてて、風の音、虫の音など、はたいふべきにあらず』
穂波が呟く。
鼻歌を歌う感じで。 心地いい響き。
「枕草子?」
『…ん』
「そうやって音にして聞くと綺麗だね」
『ね、音になるとまた綺麗だよね』
「秋は夕暮れ、か…」
冬はなんだろう。
春は曙ってのだけは覚えてる。
…穂波に聞けばわかるんだろうけど、今はいいや。
『今この時間。空、綺麗だね。
ここに渡り鳥の姿だったり、秋の風に揺れるすすきだったり、秋の虫の声だったり…
そういうのがあると一層、いとをかし。だろうなぁ』
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ギャラリーから最寄駅に向かって歩いていると、
行きには目につかなかった店が気になった。
穂波も一緒だったようで、
自然と店先に足が向かう。
「穂波、あのさ…」
『…ん?』
「いや、やっぱなんでもない」
そこは弁当箱の店で、子供向けのキャラクターものから、
わっぱとか工芸品的な要素もあるの、漆塗りの高級なやつ、
いろんな品揃えがある。
穂波の家に置いとくおれの弁当箱あったらいいな、とか思ったけど。
なんか、図々しい気がしていうのやめた。