第26章 手のひら
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「なんでその教室に入ってくんだ?」
1年6組の教室に入ろうとしたら、
烏野のコーチに声をかけられた。
…この人わかってて言ってる、絶対。
「…なんとなく、人がいないとこに」
「ふ〜ん 普通もっと変に饒舌になったりするんだけどな」
「…あの」
「なんだ?」
「好きな食べ物なんですか」
「はっ!? なんだよいきなり、こえーんだけど。なんか企んでる?」
「いや、さっき話してて… なんとなく」
「…玉こんにゃくだな。飯にも酒にも合うし」
「…玉こんにゃく …じゃ、」
「おい!聞いといて反応薄いなこら!」
後ろからなんか言われたけど、まぁいいや。
玉こんにゃくってなに。おれ、知らないし。
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昨日いたあたりになんか落ちてないか確認したけど大丈夫だった。
ガラガラって音がして、振り返ると穂波がいた。
『あ、研磨くん』
「…休憩?」
『ううん、仕込みが落ち着いたタイミングでトイレついでに。
チェックするの忘れてたと思って。 …研磨くんもみてくれたんだね、ありがとう』
「…ん。 なにも落ちてなかった」
『そっか、よかった』
「…ん。穂波、ちょっとこっちおいで」
入り口で立ってる穂波を呼ぶ。
『…ん』
「おれら昨日ここにいたでしょ、使った椅子はここの席の」
『あ、初めてお話したときの研磨くんの席だ』
「ね、場所一緒だったね …ってただそれだけなんだけど」
『…ん。 ねぇ、研磨くん、キスしてもいい?』
「…ん」
それから穂波は一度、軽いキスをして教室を出てった。
1年のころは、とかそういう思い出?に浸ったことなんてなかったけど…
別に今も浸ってはいないけど、ここにいるといろいろ思い出すなーとか。