第26章 手のひら
ー穂波sideー
「あ、いや、それは… とても気になるけど、遠慮しておくよ」
京治くんは目を逸らしてそう言った。
『うん、そっか。また機会があれば聞いてみてね。寝てる人の胸元に耳当てるのもいいよ』
「うん、教えてくれてありがとう。 …流石に彼氏に申し訳ないと思ってしまって」
『…へ? あ。 あっ… そうだよね、ごめん、変なこと考えさせちゃったね』
わたしの胸に押し付けられるなんてね、そりゃ迷惑なことを申し出たものだ…
『また、恋人とか…いつか子供とか? 好きなひとの、聞いてみてね』
「あぁ、それについては穂波ちゃんで全く差し支えないんだけど…
まぁ、ただ、今はやっぱりちょっとまだ…」
『わーごめん、気を使わせてるよね。変人の戯言だと思って聞き流してもらえれば…』
「いや、そういうんじゃないよ。
本当に穂波ちゃんからの誘いは魅力的だよ。実のところしてもらいたい。
ただ、やっぱり彼氏のことを思うと、引いとこうと思っただけで」
『…そっか。ありがとう。 …一応伝えとくと、彼はハグは気にならないって言ってくれてるんだ。
わたし小さい頃からハグされてハグして育ったからさ…そういうの理解してくれてて。
幼馴染も一個上の男の子なんだけど、親同士が仲良くてそんな感じだったから今でもいっぱいハグするし、
従兄弟は従兄弟で同い年のこれまた男の子なんだけど、ハグするし…
だから、んーと、わたしと彼はそんな感じ。 あっ だからって、ハグさせろって言ってるわけじゃないからっ!
あれっ今わたし脅迫じみてた? 大丈夫?』
「…ははっ そんな脅迫なんて… 彼は本当に穂波ちゃんを愛してるんだね。
そのままの穂波ちゃんでいて欲しいっていうのが、伝わってくる。
ハグに関しての彼の意見教えてくれてありがとう。
…でも今更やっぱりお願いしますともいかないし、
また機会があったらその時は遠慮なくお願いするよ」
『…ん』
愛してる…か。
使い慣れない、聞き慣れない言葉にドキッとしちゃった。
お父さんやお母さんからは愛してるって言ってもらうけれど…
その対象が研磨くんとなると…
そうこうしてたら朝食準備の時間になったので
京治くんとまたねして調理室へと向かう。