第26章 手のひら
ー赤葦sideー
『あ、時間』
そう呟いて穂波ちゃんはくるんと俺の脚の間で寝返りを打つ。
それから俺の脚の外に腕を伸ばす。携帯電話を取ろうとしてるらしい。
身体が、脚にくっつく。柔らかい、とことか…
『あーん、届かない。京治くん、今何時かわかる?』
ポケットから携帯を取り出し時間を伝えるともう少し大丈夫だ、と呟いて
俺の脚の間で頬杖をつきながら俺を見上げる。
…ゾクゾクする。 なんだこれ、ちょっと無防備すぎるというか、
よく考えるといろいろが近すぎる。
『…京治くん、もっかい手を合わせよう?』
「え?」
『さっき逆さまだったから、この向きだったら手のひら合わせれるでしょ』
「あぁ、うん。 はい」
手を開いて近くにやると、
穂波ちゃんは片手を伸ばして、手をあわせる
「あれ、さっきより温かい」
『うん、京治くんの壁の効用。ありがとう』
「…そっか、そんなに違うか。よかった」
『京治くんの手は、さっきより冷えたのかな。わたしが温くなっただけかな』
「さっきの、ままだと思うよ」
ほんとは多少冷えたんだろうけど、そんなの正直に言う必要ないよな?
『大きな手。京治くんの手は安心する手だねぇ』
「…そう、なのかな?よくわからない」
『うん、わたしにとってはなんだかどっしりと安心感のある手だよ』
「そっか、穂波ちゃんにとってそうであれたらそれでいいよ」
『…? ふふ。 …そうだ』
穂波ちゃんはそう呟くと指を絡めるように
俺の指の間に穂波ちゃんの指をいれてぎゅっと握った。
それからよいしょ、と身体を起こして俺の正面にぺたんと座る。
…俺の、脚の間に。
それから指をほどき、両手で包むようにした。
…温めてくれてるのか。
優しく擦ったり、すこしぎゅうとしたりしてくれる。
「…温かい、ありがとう」
『ふふ、よかった。わたしからも、ありがとう』
ふわっと微笑むその笑顔が本当に花のようで、心が奪われる。
すでに終始この状況にぐらぐらしていたというのに、
この、彼女にとっての何でもない笑顔がそのぐらつきに追い討ちをかけるような…