第26章 手のひら
ー穂波sideー
「それって、髪の毛からだったんだね」
…京治くんがわたしの髪の毛を手にとって、
少し首をかがめて鼻に毛先をつけてすんすんしてる
これは… 天然の… 色っぽい仕草?
京治くん、どこからどう見ても無自覚だけど、それは反則です。
でも、そんな気なくやってるのに反応しても悪いからな…
普通にしていよう。 …京治くんには、冷静でいられるんだよな。
京治くんの魔法、かな。
『天然のやつだからあんまり香りも強くないし、長持ちはしないんだけど、
起きてからつけたばっかだから、まだ香るかな』
「…なんの香り?」
『ゼラニウムとイランイランだよ。お花ね』
「好きだな、俺。この匂い」
『………』
京治くん、すんすんどころか髪に口付けちゃってるけど…
無自覚、無意識 …すごすぎる
匂い嗅ぐ時目とか瞑っちゃって、こんなのわたしが野獣だったら襲っちゃうよぅ
「…って俺、なにしてんだ。 ぅわ、ごめん…また…」
『ううん、ぜーんぜん。気にしないで。わたしもこの香り好き』
「ゼラニウムとイランイラン。覚えておく」
『…ふふ』
「穂波ちゃん、俺、不快な気持ちにさせてない?
いつも穂波ちゃんが笑顔で大丈夫とか言ってくれると、
あ、よかった。って思ってそれで片付けちゃってたけど…
今はのはちょっと行きすぎてなかったかな、と」
『…へ? ううん、不快だなんてそんな。反則とは思ったけどね』
「…反則?」
『うん。反則。いい意味の反則』
「いい意味の反則なんてあるの?」
『…笑 きっと本来はないよね、多分。でもあるんだよ、そういうの』
「…へぇ、そういうのあるんだね」
『あっ!でも、わたしの言うことなんてそんな、京治くんに役立つとは思えないから、
かるーく聞き流しておいてね!』
そういうのあるんだね、とかって京治くんに言わせたの初めてじゃない気がして、
よくわからないフォローをいれてしまった。