第26章 手のひら
「ごめ…」
『京治くんの脚が壁になってあったかい』
謝って動こうと思ったタイミングで穂波ちゃんがそんなことを言う。
…このままでいいのか?
『…あれ、京治くんも何か言おうとした?』
「ううん、大丈夫。 今日は風が少しあるね」
『ね。でもいまあったかいよ。すごいね』
「…それはよかった」
この子はほんとに、魅力的な子だ。
何度でも思う。
どうしてこんなにも、この子のいる世界は美しいのだろう。
『わたしのことは気にしないで、本読んだりしていいよ。…って気になるか』
「いや、全然。もし寝転がっていたいならそのままいてくれていいよ」
『…ふふ うん。じゃあ、そうする』
「………」
『………』
「…穂波ちゃんはなにを見てるのかな?」
こんなところから顔を見つめ続けてもな、と思い本を開くのだけど
下からの視線がどうも気になる
俺を見ているわけではないのだろうが、近いところに視線が向いていることはわかる。
『京治くんを見ている』
「…俺も実の所穂波ちゃんを見たいんだけど、いいかな?」
『へ?あ、うん。 …ごめん、わたしなんの遠慮もなくじっと見ちゃって』
「いや、それはいいのだけど」
見下ろすと俺を見上げる穂波ちゃんと目が合う
こんな無防備な状態で、屈託なく俺を見ている
手を伸ばせばその頬にも、その唇にも、いとも簡単に触れられる距離
「綺麗な髪の毛… 元々の色?」
『…へっ? あっ 元はね、多分黒いはずなんだけど、
もう小さい頃から海に一年中隙あらばはいってるから、潮で焼けて茶色いの』
「へぇ… 色も綺麗だし、触り心地もいい。俺の髪と全然違う」
『え、京治くんの髪の色も質感もわたし好きだよ。前に遊んでて触った』
「…そっか」
『うん、その長さもよく似合うし、黒い髪の毛綺麗だなぁって』
「…いい匂いがする いつも穂波ちゃんに近づくとほんのりいい匂いがするなって思ってたけど」