第26章 手のひら
ー赤葦sideー
朝起きて本を手に歩いていると
玄関のとこに穂波ちゃんを見つけた。
手を空にかざして見上げている。
邪魔をしないようにそっと近付いて、
穂波ちゃんの後ろに立ったままで俺も同じことをしてみる。
空と、手と…
手の形がよく見える気がする…
こつんとつま先に何かが当たる。
『わ』
下をみると穂波ちゃんが寝そべっていた。
「あ」
足が頭に当たってしまってる。
後ろに下がろうとすると、
『あ、京治くん、待って、動かないで』
そう言われ、そのまま動かないでいたのだけど思いの外その時間が長く、声をかけてしまった。
もう動いていいと言いながら、穂波ちゃんは寝そべったまま手をこちらに掲げる。
気がついたらその綺麗な手のひらに俺の手を重ねていた
そのまま膝を曲げしゃがむ。
すっぽりと収まってしまってこちらからは見えないが、
すこし冷えた手の温度とすべすべと気持ちのいい肌の感触が伝わってくる。
「…おはよう、穂波ちゃん」
そう言って手を離すと穂波ちゃんも手を下ろす。
俺を見上げる顔が、全部見える。
『京治くん、おはよう』
浮かせていた腰を落ち着け、脚を伸ばす。
『京治くんも、すき?』
「えっ」
『…?』
「えっと、なにが?」
何のことだろう、いきなり。
『空に、手をかざすの』
「いや、好きなわけじゃないんだけど…穂波ちゃん、よくやってるよね。
それで、今日何となく、真似してみた」
『…ふふ そっかぁ』
「………」
いやちょっと待て、俺、すごい普通に足を伸ばしたけど、
穂波ちゃんのこと脚で挟むみたいにしちゃってるじゃないか…