第26章 手のひら
『じゃあ、わたしも質問して良い?』
「あ、はい。どうぞ」
『いつまでもここに居座っちゃいそうだから、これ終わったらわたし降りるね』
「…ですね。僕も何しでかすかわかんないし」
『…ふふ。 蛍くんはいまどんな気持ちですか?』
…どんな気持ち
「…なんでこんなに落ち着くんだろうってくらい落ち着いてます」
『………』
「いや落ち着いてないで襲っちゃいなよ、って自分がいなくもないんですけど」
『………』
「それに勝っちゃうくらい、安心が強いですね。 あと単純に嬉しい」
『………』
「…普通ここ、盛るとこですよ。お互いに。 落ち着くってなに? 意味不明」
『わたしも盛ることを許しまえば、それはもう…』
「…ぶっ あはは!笑 赤裸々…」
『これはなんだろうね。…蛍くんの愛?』
「はっ? ちょっとやめてよね」
『ねぇ、蛍くんほんとに辛くない?』
「辛くないよ、穂波さんが笑ってれば」
『なっ 蛍くんはほんとっ そういうとこ…』
「質疑応答が終わってもまだまだここに居座りそうですね、穂波さん。
もういっそのこと繋がっちゃいますか?」
『…この辺りで失礼させていただきます』
「…笑 一緒に銭湯行きましょう。孤爪さんはきっとそこまで含めてOK出してると思うし」
『うん、そうだね。さっと片すね』
それから調理室を後にして、銭湯の行き来を一緒にした。
1ヶ月前とは季節が明らかに変わっていて、
こうしてなんでもないようなことを共に重ねていくのは良いだろうなと、そんなことを考えた。
穂波さんは子供みたいに無邪気なくせに、
妙に落ち着いたところがあって、
だからかなんなのかはわかんないけど、
僕の思考を老けさせる気がする。
16になったばかりだっていうのに、自分に跨る好きな人に欲情せず、
挙句、こんな風にいつもの道、だとかそういうのを四季がめぐる中で
共に歩いたりできたら良いのに、とか。 完全に思考が…
辛くないかと、おそらく敢えてさらっと聞いてきた。
そして、僕が答えたことをそのまま受け止めることにしてるようだった。
辛くはないけど…
ほんと、もっと近くに住んでたら良いのにとは、思う。