第26章 手のひら
ー穂波sideー
10月7日(日)
合宿2日目。
いつもの時間に目が覚めて、
顔を洗って、水筒と本、それからショールを持って2階の渡り廊下へと行く。
…なんとなく歩いてたらここに来てた。
ぼんやりと、昨日のことを考える。
蛍くんは、意図的にか無意識でかはわからないけど、
なんでもないことのように普通に話をしてくれてるんだな、と思った。
すっかり忘れてたけどキスされたし、指も舐められた。
挙句に蛍くんに跨って、しばらく会話もした。
でもその間にあるのが、いつもと変わらないトーンの会話で、
わたしはそれにつられるように普通になってしまう…のかな?
蛍くんの、魔法?技?みたいな。
…本、読もうっと。
・
・
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「あれ」
扉が開く音がして振り返ると京治くんがいた。
歯ブラシを口に咥えてて、もごもごした声がした。
『あ、京治くん。おはよう』
「…ん」
『いいよ、歯磨きしてて 笑』
京治くんはしばらくシャカシャカと歯磨きをして、
それから一度中へ入って口を濯いで戻ってきた。
『…ふふ。おかえり、京治くん』
「え、あぁ、ただいま。そしておはよう、穂波ちゃん」
『いつもここで歯磨きするの?』
「あ、うん。なんとなく朝起きるとここで歯を磨いてた」
『…へぇ、なんかいいね』
「…そうかな?」
それから本の話とか、
やっぱり静かに溢れてくる話をぽつぽつとした。
京治くんとのお話はほんとにおもしろい。
「…穂波ちゃん、何か他に考えてることある?」
『へ?』
「気のせいかもしれないけど、そんな感じがする」
『あ、うん。あるかも。 すごいね、京治くん』
「俺でよければ聞くけど」
『ふふ。ありがとう。 …悩みとかじゃないし大したことじゃないんだけどね、
動転したり、ドキドキしたりしてても、一瞬ですーっと落ち着かせる人がいて』
「…穂波ちゃんのことを?」
『うん、そう。他の人にとってどうなのかはわからないけど…』
「彼氏?」
『あ、彼はね、彼もそうだね、魔法を持ってるんだけど、ちょっとまた違って』
研磨くんといるとそれはもう極上の安心があるけど…
どきどきに関しては、加速する一方だし。