第26章 手のひら
ー月島sideー
ダメだ、電気を消して蝋燭の灯りだけっていう状況になったときから、
今はもう電気はついてるとはいえ止まらない。
…いや、これ普通でしょ。
普通な反応だと思う。
僕の誕生日祝いを2人きりでして、
ショートケーキは手作りで、電気は消えるし、
距離は近いし、キスしたっていうのにそのあと普通にしてるし。
食べさせてとは言ったけど、 あーんして は想定外だったし、
口についたクリームを普通に指で拭ってくるし。
僕の反応は至極真っ当なはずだ。
『スポンジは作ってきて、仕上げはこっちで。時間のある時にさせてもらった。公私混同 笑』
「…美味しい。結局ほとんど僕が食べてるけど」
さっきから何度もおいしいと言ってしまうのは
単純においしいからなんだけど、
それに加えてこの人は、美味しいというと不思議なほどに可愛い顔をする。
それもあって、つい馬鹿みたいにおいしいと何度も伝えてしまう。
「なんで、作ろうと思ったの?」
『蛍くんの好きな食べ物だから』
「ふーん… へぇー… ほんと、天然たらし」
『…ん?なんて言った?』
「なんでもないです。 …はい、じゃあ最後は一切れずつ」
フォークにとって穂波さんの口元に持っていく。
躊躇なくぱくっと食べて、ありがとう、と微笑む。
それから何を思ったのか最後の一切れをフォークにとり、
僕の口元に差し出してくる
…食べるしかないのでそれを食べるわけだけど……
これ、普通に恋人同士がすることでしょ
…なにこれほんと、意味不明。
『…お茶、もう一杯飲む?』
「あぁ、うん。鍋は大丈夫?」
『あ、うん、あれはじっくりことことしたいから大丈夫だよ。お風呂行く前に火を消す』
「…今日は仕込み少ないんだね」
『うん、蛍くんをお呼びだてしたわけだし、一緒にいれるように献立考えた』
「…ねぇ、穂波さん」
『んー?』
「僕以外の男ともこういうことするの?」
『へ?』
「彼氏さん以外で」
『んー? んー? こういうこと?』
「2人きりで、好きな食べ物を振る舞ったり。こういう時間とか。食べさせたりとか」
『んー? ちょっと、蛍くんは蛍くんだから、ほかの人がどうとかわかんない』
「………」
『蛍くんは特別な人だから』