第26章 手のひら
「…この、今の時間って穂波さんにとって何?」
優しく目を細めたまま、蛍くんは言う。
『この、今の時間は… お誕生日おめでとうっていう時間。
お祝いできて嬉しいよ、蛍くんに出会えて嬉しいよっていう気持ちで溢れた時間』
「…ねぇ、僕にも食べさせて?木兎さんの願い3つ聞いたんでしょ」
『みっつ? …あぁ、3つ』
光太郎くんと一体何してたのか聞かれて、
大根を切りながらお話したんだった。
「だから、ひとつ目。食べさせてよ」
『へっ 蛍くん なんかっ』
甘えてくるとかあり?変化球すぎて…
そのくせ口調も声色も纏ってる空気感もはいつものまま。言ってることだけが違う。
まさに研磨くんはこういう感じで…
そしてわたしはこういうのに弱い。
「なに? …桃もメロンも一緒のとこ」
『…あ、うん。 じゃあ、はい、あーん』
「はっ!? ちょっと、馬鹿じゃないの」
『えっ どういうこと!?』
気を取り直してあーんしたら、馬鹿じゃないのって。
でもからかってる感じでもないと思ったのに
「…いや、なんでもない」
『…? はい、あーんして?』
蛍くんの小ぶりで上品なお口が開いて、
ケーキをぱくっと食べる。
「…美味しい、です。 …メロンと桃のケーキ、美味しいね」
『…ね、おいしいよねぇ。 よかったぁ』
「…やばい」
『…? …ふふ。クリームついてるよ、ここ』
蛍くんの口元を指で拭う。
指が離れたくらいのタイミングで手首を掴まれて…
『ひぁッ!』
蛍くんは舌を出してわたしの人差し指をペロッと舐めた
「…笑 自業自得」
『蛍くん〜〜〜』
いつにも増してわたし、遊ばれてるような…
「これ、いつ作ったの? 作って持ってきたの?」
蛍くんは何事もなかったかのように、
ケーキを食べながら話を振ってくる