第26章 手のひら
ー穂波sideー
「あ、メロン」
ショートケーキが好きだという蛍くんが
先月末お誕生日だったと聞いて
せっかくだから作りたいなぁと思ってしまった。
山口くんも誘ったんだけど、
「穂波ちゃんがいいなら、ツッキーは俺がいない方が嬉しいんじゃないかな」
と言われ、そんなことないよと返したら
「なんていうか、穂波ちゃんと2人だけの方が素直に喜べると思う」
とのことで、2人でお祝いすることになった。
研磨くんには、前々からショートケーキを作ろうと思うことは伝えていて。
山口くんは来ないことになったことも昼休憩の時に伝えた。
「…ふーん、まぁいいんじゃない? おれも穂波のショートケーキ食べたい」
研磨くんも一緒に食べる?と聞いたけど、
「いや、おれは今回はいいよ。月島のともだちが来ないのにおれが行ったら意味ないし。
おれも今度小さいケーキ2人で食べる」
とのことだった。
そのあと、ちょっと外出て って言われて、
壁の出っ張ってる死角になるところで首にキスマークをつけられた。
蛍くんに対して、研磨くんはすこし警戒心があるのだな、と思う。
…そりゃ、そうだよね、あんなことしちゃったし。
でも、それでも、まぁいいんじゃない?が本心なのもしっかり伝わってくる。
…研磨くんは我慢強くないから、って言うけど
それはほんとだと思うし、我慢はきっとしてないんだろうけど…
懐が深いなぁ、と思う。
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『桃とメロンはさ、夏のショートケーキって思ってたんだけど…』
「あ、桃も入ってる」
『そう、秋の桃もあるんだって、晩成種。
いつもいく八百屋のおじさんが教えてくれたんだ』
「…へぇ 美味しいね」
『ね、桃、濃厚だねぇ』
「うん、穂波さんも食べて。僕ひとりで食べれちゃいそうでこわい」
『…ふふ、食べれるなら食べていいんだよ。いっぱい身体動かしてるんだし』
「いや、一緒に食べたいから、はい、どうぞ」
蛍くんがフォークにケーキをさして口元に差し出してくれる。
パクッと口に含むと、優しい目で微笑む。
たまに見せる、蛍くんのこの、優しい目。
いつもがいつもだから、ドキッとしてしまう。